[消えた洗濯バサミ] 愛知県大府市 武生容子(44)

2021年9月26日 07時14分

◆わたしの絵本

イラスト・まここっと

◆300文字小説 川又千秋監修
[モーニング] 愛知県一宮市・自営業・57歳  伊藤慶巳

 「私はバターで」
 「わしはジャムにしてちょ」
 ここ喫茶店の定番は、モーニングサービスだ。
 基本は、コーヒーにトースト。それに、ゆで卵が付く。
 これをコーヒー一杯分の料金で提供するから、庶民には強い味方だ。
 「トーストは、まあええで、おにぎりにしてちょ」という強者もいる。
 そんな難題にも快く応えてくれるから、今ではケーキにスパゲティ、ステーキまで選べるお店や、「一日中モーニング」というお店もあるから、大盤振る舞いだ。
 モーニングは、古風で世話好きな愛知県らしい文化だから、そのうち「縁談を調える」なんていうモーニングサービスも付いてくるかもしれない。
 おなかいっぱい、幸せいっぱいのモーニング!

<評> 発祥地や起源に関しては諸説あるものの、朝のコーヒー一杯から始まったサービス文化は今や全国に波及。種々のメニューを生み出しながら、地域の絆を支える交流の場にもなっているようです。

[そこに山があるから] 東京都八王子市・自営業・59歳 松橋真理子

 山頂には先客がいた。
 楽しげな三人組の男性がおにぎりをほおばっている。七十代半ば、こざっぱりした身なりと漏れ聞こえる会話から充実した人生を歩いてきたとうかがえる。長年の親友同士での山登りのようだ。
 心から寛(くつろ)ぐ笑顔は気持ちがいい。つい見とれていると目が合い、会釈し合って言葉を交わした。
 「僕ら、月に一度こうして登ってるんですよ」
 昭和十九年生まれの同級生だと問わず語りに話してくれる。こちらも釣り込まれて笑顔になった。
 どうぞずっとお元気に。心に願いながら手を振り合って山頂を後にした。
 私はいつまで山に登れるだろう。
 いま登れるからといって来年も同じように登れるとは限らない。
 「今」を大切にしようと帽子をかぶり直した。

<評> 完全装備で挑む高峰から、気軽なハイキング、散歩程度の裏山まで、目指す頂上はさまざまでも、登り切って眼下を見渡す爽快感は誰にとっても格別の体験。足腰のためにも、ぜひお続けください。


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