「危機の宰相」「民主主義の最後の守護者」メルケル氏とは、どんな女性か?

2021年9月26日 21時18分
 ドイツのメルケル首相(67)は26日の総選挙に出馬せず、新政権の発足に伴い政界を引退する。独史上最年少の51歳で、初の女性首相に就任して4期16年。数々の難局を乗り越え、「危機の宰相」とも呼ばれたメルケル氏は、自由と人権、民主主義や多国間協調を重んじる姿勢を貫いてきた。(前ベルリン支局・近藤晶)
 欧州債務危機やウクライナ危機では、交渉で粘り強く妥協点を見いだし、存在感を示してきたメルケル氏。だが、2015年にシリア内戦などで中東・アフリカから欧州に押し寄せた難民の受け入れは評価が割れる。難民排斥派を伸長させ、社会の分断を招いたとの批判もあるからだ。

2018年6月、ベルリンで難民と写真を撮るドイツのメルケル首相(中央)=AP・共同

 しかし、難民危機から5年の節目となった昨夏の記者会見で、メルケル氏に揺るぎはなかった。「私は同じ決断をするだろう。国境で立ちすくむ人がいれば人として扱い、助けるために各国と交渉する。それは私の信念だ」
 旧東ドイツ育ち、女性、プロテスタント。伝統的な保守政党、キリスト教民主同盟(CDU)にあって、メルケル氏は異色のリーダーだった。難民受け入れを含め、その決断には生い立ちや信仰心が背景にあったとする指摘は少なくない。
 先進7カ国(G7)の首脳で、社会主義体制下の抑圧を身をもって知る指導者は他にいない。自国第一主義を掲げるトランプ米政権時代には国際協調の重要性を訴え続け、「民主主義の最後の守護者」とも言われた。

2018年6月、カナダでのG7サミットでトランプ米大統領(当時・右端)に向かい身を乗り出すドイツのメルケル首相(中央左)=ドイツ政府提供、AP・共同

 「移動の自由を苦労して勝ち取った私のような人間にとって、絶対に必要な場合にしか正当化されない」。新型コロナウイルス対策で国民に厳しい行動制限を強いる際も、自身の旧東独での経験を引き合いに出し、国民の共感を得た。
 世論調査では退任を控えた今も、メルケル氏の支持率は7割近い。選挙戦が本格化して以降、支持率トップの政党が目まぐるしく入れ替わったのは、「メルケル・ロス」に戸惑う世論を反映しているとも言える。
 総選挙後の連立交渉は難航が予想され、新政権発足まで当面は首相にとどまるとみられるメルケル氏。政界引退後については「私の挑戦は任期最後の日まで続く。その先のことは今は考えられない」と明言していない。

 アンゲラ・メルケル 1954年7月17日、旧西独ハンブルク生まれ。牧師の父の旧東独赴任に伴い、生後すぐに移住。カール・マルクス大(現ライプチヒ大)で物理学を専攻し、東ベルリンの物理化学中央研究所研究員に。86年に理学博士号を取得した。メルケルは前夫の姓で、旧姓はカスナー。現夫のヨアヒム・ザウアー氏はベルリン・フンボルト大学で教授を務める量子化学者。

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