韓国軍内部のいじめ生々しく映す…ドラマがネット配信で評判 国防省もコメント、社会現象に

2021年9月27日 17時00分
<特派員の眼>
 韓国軍内部のいじめを描いたドラマ「D.P.―脱走兵追跡官―」が、動画配信サービス「ネットフリックス」で8月下旬の公開後、再生ランキング上位を走る。朝鮮戦争が終わっていない韓国で続く徴兵制の暗部を、生々しく映していると評判。国防当局や次期大統領候補らもコメントを出す社会現象となっている。(ソウル・相坂穣)

◆兵役経験者「目撃した暴力や腐敗と重なる」

 D.Pは、Deserter(脱走兵) Pursuit(追跡)の略で、軍警察(憲兵)で脱走兵の逮捕を担う追跡官の通称。ドラマは、2014年に実際に起きた陸軍部隊での暴行致死事件やいじめを受けた隊員による銃乱射事件をモデルにしているという。
 部隊で先任兵から壁に刺さったくぎに頭を押しつけられたり、防毒マスクを使って水責めされたり、過酷な虐待を受け、脱走や自殺を図る後任兵らが登場。脱走兵らを主人公の追跡官が捜索する姿が描かれる。
 「リアルなドラマで、私が実際に部隊で目撃した暴力や腐敗と重なる」。2000年前後に陸軍砲兵隊で兵役生活を送った首都圏の40代の男性会社員は証言する。「部隊で脱走者が出て、連帯責任で自分も上官から拷問のような聴取を受け、1週間で体重が10キロも減った」と振り返った。

ソウルで9月、地下鉄駅に掲示された「D.P.-脱走兵追跡官-」の広告=相坂穣撮影

◆大統領選候補者もドラマを意識

 ドラマのテーマは、19歳以上の男性が原則、陸海空軍などに2年程度、入隊する兵役義務がある韓国で多くの人の琴線に触れる。
政財界の有力者の子弟が特別扱いで前線への配属を免れたなどのうわさも後を絶たない。昨年、秋美愛チュミエ前法相の息子が兵役中に休暇を不正取得した疑惑が発覚し、文在寅ムンジェイン政権は打撃を受けた。
 国防省は9月上旬、ドラマに関し「暴行やいじめなど兵営内の不条理を根絶できるよう、努力してきた」と軍の変革を強調する公式コメントを出した。
 来春の大統領選に出馬を決めた候補らも、人気ドラマを意識した論戦を展開。与党「共に民主党」の李在明イジェミョン京畿道知事は「青年らを絶望させる野蛮の歴史を止める」と述べ、保守系野党「国民の力」の洪準杓ホンジュンピョ国会議員も「若者たちがいじめに遭っているのであれば、胸が痛い」と語っている。

◆世論「軍隊離れ」も、予算は急増

 今年5月の徴兵制に関する世論調査では、軍隊生活が人生に役立つとの回答は、60代以上の男性で82%に上ったが、20代男性は49%にとどまり、若い世代ほど否定的な傾向が出た。
 世論の「軍隊離れ」が進む一方、韓国軍は急激に膨張している。8月下旬に発表された22年度の国防予算案が総額55兆ウォン(約5兆3000億円)となり、人口2倍超の日本の21年度の防衛費にほぼ並び、国民1人当たりでは日本の2倍以上となる。文政権は米軍依存を脱する「自主国防」を掲げ、軽空母や潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)開発などを推進、任期5年で国防予算は4割近く急増した。
 軍隊の理不尽に複雑な目を向けるドラマのヒットと、革新系政権の下で軍事大国化が進行する韓国という現実の乖離に、底気味悪さを覚えている。

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