トンボ王国東京 全国2位の多様性 108種の記録集出版

2021年9月28日 07時03分

東京タワーを望む芝公園で、羽を休めるウスバキトンボを見つめる喜多英人さん

 暑さも一段落し、散歩が心地よい季節になった。移ろいを一層感じさせてくれるのが都心でも飛び始めた赤トンボ。意外だが面積で全国45位の東京は、全国2位の多様なトンボを見られる地域だそうだ。首都のトンボ事情を書籍にまとめた日本トンボ学会員の喜多英人さん(62)と、都内のトンボを探索した。
 「あそこにいます」。22日午後、東京タワーのふもと、港区・芝公園を歩くと喜多さんがあっさりトンボを見つけた。素人目には分からず、探している間に飛び去ってしまった。
 目が慣れてくると、飛んでいるのも止まっているのも少しずつ分かるように。「普段歩いている時より視線を下げたり上げたりすると止まっているのを見つけやすい。開放的で明るく、水草が豊か、水の流れが速すぎない−などの生息に適した水環境があるかも意識して」と探すコツを教わった。
 シオカラトンボにウスバキトンボ。赤トンボと呼ばれる一つ、アキアカネも確認できた。帝国ホテル向かいの日比谷公園へ移動すると、ここでギンヤンマを発見できた。「世界有数の大都市・東京は一般の人が考える以上に多くのトンボがいます」。喜多さんは言う。

ウスバキトンボ

アキアカネ

 喜多さんと仲間の研究者の調査では、過去に一度でも記録された東京のトンボは108種類(絶滅したものも含む)。鹿児島県の120種類に次いで2番目に多いという。全国平均は94種類。日本全体では204種類が確認されている。
 東京の変化に富んだ地形が多様性を育んでいる。東西に長く、西に2000メートル級の山、東には海抜ゼロメートル地帯。都の東部にはかつてヨシ原や湿地もあり、武蔵野は井の頭池など湧水源がある。
 珍種もいる。「八王子やあきる野、青梅などで見られるムカシトンボは、生きた化石といわれる。体はヤンマの仲間に似ているけど、羽はカワトンボに似ている。世界で同じ科のトンボは4種類だけ。東京の誇り」と喜多さん。汽水域をすみかとするヒヌマイトトンボも多摩川河口で見ることができる。
 1936年に現在の葛飾区水元付近で見つかったオオモノサシトンボは唯一、学名の種小名に「TOKYO」の名が付いた。だが2004年以降は確認されておらず、残念ながら最近、名前が変更された。

TOKYOの名が付いていたオオモノサシトンボ=「東京都のトンボ」から転載

 「飛ぶ美しさに魅了されて」中学生の頃からトンボの写真を撮ってきた喜多さん。19年まで12年間、トンボ学会の役員を務めていた。今年7月、出身地の東京に絞り、生きた姿を中心に108種類全て掲載した「東京都のトンボ」(いかだ社)を出版。大手製薬会社を退職した2年前から準備してきた。
 書籍は、都内の自治体別に確認できる種類の一覧表を載せた。これまで最も多様な種類が確認されたのは八王子市の72種類。意外にも2位は杉並区と練馬区の65種類。それぞれ、善福寺池と三宝寺池があり、水辺に恵まれている。
 ところが2000年以降に限ってみると様相が変わる。杉並と練馬が後退。トップの八王子は同じだが、2位はあきる野市、3位は青梅市に。「都区部に比べて生息しやすい豊かな自然が比較的よく残されている」と喜多さんは推察する。確認記録は出版社ウェブで更新していくという。
 「都心部も、ある程度の種類は見られ、中には回復した種類もいる。でも以前に比べれば多様性は後退した。さまざまなトンボを見られる環境は人にとってもいいはずで、トンボをきっかけに考えてみてほしい」
 「東京都のトンボ」はフルカラー。260ページ。3200円(税抜き)。
※番号のついたトンボの写真は「東京都のトンボ」から転載

(1)ムカシトンボ

(2)ミルンヤンマ

(5)ヒヌマイトトンボの交尾の様子

 文・井上靖史  写真・由木直子
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