作って食べて古代体感 『古典がおいしい! 平安時代のスイーツ』 奈良女子大協力研究員・前川佳代さん(54)

2021年10月3日 07時00分
 <削り氷(ひ)に甘葛(あまづら)入れて、あたらしき鋺(かなまり)に入れたる>。枕草子でかき氷に触れたくだりだ。ここに出てくる古代日本の甘味料「甘葛煎(せん)」を研究、奈良女子大のグループで二〇一一年に再現に成功した。実際に食べられていたであろう姿を考えたのが本書。「古代人と同じ味を味わい、教科書の世界を身近に感じてほしい」と、子供にも作れるようにとレシピ集にまとめた。共著者で同僚の宍戸香美(よしみ)協力研究員が古典作品の解説を添えた。
 甘葛煎は奈良時代には既に存在していたが、砂糖が伝来すると廃れ、江戸時代には原料や製法が分からなくなってしまっていた。原料に諸説ある中、同大グループは、ツタの樹液を煮詰めて再現した。
 本書では枕草子のかき氷のほか、源氏物語や今昔物語集などに出てくる菓子十種類を取り上げた。形や製法は、法典や料理書など古文献を基に考証。粉を練った「唐菓子(からくだもの)」のような、現在でも神饌(しんせん)として形態を留(とど)めているものも参考にした。レシピは、現代の材料で作れるようアレンジした。
 研究を通して、古代の食のイメージが変わった。甘葛煎作りは多大な人手が必要で、当時は上流階級しか口にできない高級品。少しずつ大事に使いそうなところだが「甘葛煎だけで粉をまとめるには、かなり量が要る。ことによると現代より甘い物を食べていたのでは」とみる。
 自分たちで作ってみたら、身分制に基づいた重労働で成り立つ古代社会が体感できた。自分の祖先が何を食べていたかを知れば食の経験が広がり、現代でも知恵として使える。「古代の人のメッセージを伝える、まさに歴史研究者の仕事」
 甘葛煎の再現には成功したが、当時の製法はまだ分からない。やるほどに研究課題や謎が出てくる。樹液の採り方など手法を教えてくれた先行研究者が亡くなり「ノウハウを受け継ぐ責任のある立場になった」とも自覚する。
 現在、人工的に甘葛煎を作る研究を進める。糖類や、計十五種のミネラルと有機酸などの含有成分を調合し、特徴的な甘さの再現を目指す。「大量に作れるようになれば、観光向けの使い方もできる」。プロジェクトには地元のかき氷店も加わっている。「奈良を古代スイーツの中心地にできたら」と、夢は膨らむ。
 かもがわ出版・二七五〇円。 (松崎晃子)

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