[時計の花]名古屋市中川区 伊藤誠人(9)

2021年10月3日 07時59分

◆わたしの絵本

イラスト・まここっと

◆300文字小説 川又千秋監修
[トマトの赤く実る頃] 岐阜県羽島市・公務員・27歳 山田優治

 アパートのベランダにプランターが一つ。
 「息子の初めての食事は手作りがいい」。そう言った妻の“手作り”は、育てるところからだった。
 おかゆにする米はどうしようもないが、トマトなら離乳食の初期から食べられるし、ちょうど時季である。
 朝の授乳後はトマトに水をやりながら息子に語りかけるのが妻の日課だ。
 「ほら、これがトマトだよ。尚ちゃん食べてーって、もうすぐ真っ赤になるよ」
 無事に初収穫を迎え、初採れトマトはすりつぶされて息子の口へ。
 にーっこり笑うと、口の周りを赤くべたべたにしながら、器やスプーンに手をのばし、次々欲しがる。
 妻の喜びもひとしおである。
 トマトの収穫もそろそろ終わりを迎える。
 次は二十日大根を育てるらしい。

<評> 多くの方が楽しんでおられるベランダ菜園ですが、改めて、手作りの意味をじっくり考えてみたくなる作品。優しさと愛情をたっぷり注がれて育った季節の収穫物は、鮮度抜群。まさしくママの味。

[初孫] さいたま市浦和区・主婦・59歳 小池美穂子 

 秋に里帰り出産する娘。
 日々、浮足立つ私に反して、冷静さを崩さない夫。
 朝食後、夫はホームセンターのチラシとにらめっこ。初孫にはあまり興味がないのかな?
 そう思いつつ眺めていると「ちょっと買い物」と言い置いて、外出。
 小一時間ほどして帰宅すると、やおら和室におこもり。
 「出来上がるまで入室禁止だよ」との夫の言葉に従う私。
 夕飯を終え、そそくさと和室に戻った夫。しばらくすると、歓声が。
 慌てて見に行くと、今まで普通だった障子や襖(ふすま)に、なんとも可愛(かわい)いキャラクターが描かれていた。
 娘の里帰り出産まで、あと数カ月。
 この和室が、どこまで可愛らしく変身するか、ドキドキしながら見守る新米ババさんでした。

<評> その日を指折り数えて待ちわびる新米どうし。ご主人が冷静さを保っているように見えたのは、躍り上がって喜びたい気持ちを、どうやって表現したらいいか分からなかったからかもしれませんね。


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