黒川紀章氏の名建築を解体へ 銀座の「中銀カプセルタワービル」、国内外で再利用計画

2021年10月7日 16時58分
 生物の新陳代謝のように、カプセル型の住宅を取り換えながら建物を存続させる。こんな発想で建築家の黒川紀章氏(1934〜2007年)が設計した中央区銀座の「中銀(なかぎん)カプセルタワービル」が来春にも、老朽化で解体される見通しになった。カプセルは実際に交換されることはなかったが、黒川氏の思想を残そうと、取り外して国内外で再利用する計画が進んでいる。
 約10平方メートルの四角いカプセルの中に、丸い窓、テレビなどが組み込まれた収納棚、ユニットバス。「『宇宙船みたい』とよく言われるけど、茶室をイメージしたそうです」。案内してくれた区分オーナーの前田達之さん(54)が説明した。

中銀カプセルタワービルの一室で保存活動について話す前田達之さん

 建物は集合住宅で、1972年に完成した。11階建てと13階建ての2本のタワーに、取り外し可能なカプセル140個が固定されている。
 建物も生命体のように新陳代謝を繰り返すという建築運動「メタボリズム」の最高傑作とされる。カプセルの交換を生物の細胞の新陳代謝に見立てている。世界的に知られ、ハリウッドからフランシス・コッポラ監督らも見学に訪れた。
 カプセルごとに区分所有され、老朽化すると、管理組合で建て替えかカプセル交換かの議論が繰り返されてきた。前田さんら一部のオーナーや住人らは2014年、「保存・再生プロジェクト」を立ち上げ、カプセル交換による保存を目指した。
 前田さんによると、交換による保存と耐震化には、20億〜30億円程度の費用がかかる。18年から海外のファンドやデベロッパーに購入と保存を持ちかけ、打ち合わせをしてきた。しかし、昨年からのコロナ禍で交渉はすべて中断。今年3月、管理組合は土地売却を決議。取り壊されることになった。

円窓のついた細胞のようなユニットが並ぶ銀座の中銀カプセルタワービル

 利用法は主に住居、セカンドハウス、事務所の3種類。現在、賃借した住人の退去と区分オーナーのカプセル売却が進み、今も使われているのは30室たらずになった。
 「メタボリズム思想の代表的建物は失われるが、少しでも後世に継承を」と、保存・再生プロジェクトのメンバーたちが今、目指しているのはカプセルの再利用だ。
 建物の解体時にカプセルを取り外し、最大139個のカプセルをプロジェクトが譲り受けることになった。再利用のため、黒川紀章建築都市設計事務所の協力でカプセルを改修するめども立った。
 再利用の一つが、美術館への寄贈。以前からフランスのポンピドゥーセンターなど国内外の美術館から、カプセル譲渡を依頼されていた。現在、世界の有名美術館を含め、国内外の約30館から寄贈の要望が寄せられている。
 もう一つは、カプセルでの寝泊まりを体験できるように、ホテルやキャンプ場などに設置する計画。レプリカを使う構想も持ち上がっている。既に数件の問い合わせがあるという。

 建設当時の状態が残る一室

 「この建物は、カプセル交換という黒川さんの考えを実現して完成する。だから、まだ未完の状態」と前田さん。「再利用によって『細胞』であるカプセルは移動し、世界中に広まる。交換とは違うけど、メタボリズムの実現と言えるのでは」と楽しそうに語る。
 黒川さんの理念を体現した名建築は残らなくても、その「細胞」は世界中で生き続ける。
文・宮本隆康/写真・佐藤哲紀
 ◆紙面へのご意見、ご要望は「t-hatsu@tokyo-np.co.jp」へ。

関連キーワード

PR情報