日大背任事件 理事長「側近」の井ノ口容疑者、大学の金 自在に…タックル問題で失脚も早々に理事復帰

2021年10月7日 21時54分

一緒に写真に収まる井ノ口忠男容疑者(右)と籔本雅巳容疑者=4月21日、日本大学ホームページから

 日本大学の現職の理事が、2億2000万円を大学から不正に流出させた背任容疑で東京地検特捜部に逮捕された。理事長の“側近”として関連会社「日本大学事業部」(東京都世田谷区)を取り仕切り、大学の金を自在に操っていたとされる。共犯で逮捕された流出先の医療法人グループ前理事長を含め、学生数6万6000人のマンモス私大を舞台にした癒着の構図が浮かび上がっている。(三宅千智、奥村圭吾、小嶋麻友美)

◆理事長妻のちゃんこ店通う

 背任容疑で逮捕された日大理事の井ノ口忠男容疑者(64)は近年、田中英寿理事長(74)の側近として学内で影響力を強めた。
 大阪市出身で日大に進学。アメリカンフットボール部では主将として、大学日本一を争う甲子園ボウルを制した。2018年の悪質タックル問題で監督を辞任した内田正人・元日大常務理事(66)の2年後輩で、内田氏を通じて08年ごろ、相撲部出身の田中理事長と知り合ったとされる。
 田中理事長の妻が経営するちゃんこ料理店に通うなどして懇意になり、「日本大学事業部」に田中理事長の推薦で入社。17年に日大理事に上りつめた。

◆「真相解明を妨害」

 アメフト部でコーチも務めたが、悪質タックル問題で、選手に口封じを図ったことが判明。第3者委員会の調査報告書は、井ノ口容疑者を「理事の立場にありながら隠蔽工作を行い、真相解明を妨害した」と厳しく断じている。
 これを受けて18年7月、日大理事と事業部の役職を辞任したが、19年12月に事業部取締役、昨年9月に日大理事の座に早々と復帰。「理事長の後押しがあったのでは」と日大関係者は推測する。

◆籔本容疑者と高級クラブで親しく

 籔本雅巳容疑者(61)とは数年前、井ノ口容疑者の親族を通じて知り合い、ゴルフなどで親交を深めた。2人を知る関係者は「籔本容疑者は井ノ口容疑者を『ター坊』と呼び、高級クラブで飲むなど親しくしていた」と語る。
 籔本容疑者は田中理事長にも接近し、アマチュア相撲団体を統括する「日本相撲連盟」で田中理事長とともに副会長を務めている。

東京地検特捜部の捜索を受けた日大事業部

◆日大事業部「集金マシン」

 不正実行の舞台となった「日本大学事業部」は設立から10年余で事業を拡大、売り上げを大きく伸ばした。一方、契約や業者選定の過程に不透明な点が多く、利権に巣くう「集金マシン」と揶揄する声もある。
 事業部は2010年1月、日大が100%出資して設立。大学の保険代理店事業や学内の自動販売機の設置などを手掛け、契約の集約化でコスト削減や効率化を図る目的だった。外部への手数料を節約し、非課税の寄付として日大に資金を還元できる利点もあった。

◆「全て事業部を通せと」

 ただ、日大教員の1人は「パソコン購入や出張経費まで事業部が一手に担うようになった。事務方からは『全ての物品購入は事業部を通せ』と強く言われた」と打ち明ける。
 民間信用調査会社によると、売り上げは14年は13億円だったが、19年には90億円に。急成長の半面、決算書類や役員報酬などは日大幹部にも明らかにされず、「不透明な点が多い」との声が大学内部から上がっていた。
 井ノ口容疑者は11年以降、「理事長付相談役」の肩書で事業部に入り込み、取り仕切った。取引先に多額の協賛金を要求し、拒んだ社を取引から外すなど強引な手法も目立ったという。

◆「事業部を牛耳る『金の番頭』」

 元日大理事の男性は「病院や校舎など年間数100億円の設備投資や広告の発注など、ありとあらゆる利権が事業部に集約されている。井ノ口容疑者は田中理事長の命を受け、事業部を牛耳る『金の番頭』だった」と明かす。
 別の日大関係者は「経営効率化の観点でも事業部は必要だ」と強調するが、「ただ、ガバナンス(統治)が機能していればの話。一部の人物に私物化されている大学組織を刷新してほしいというのが現場の願いだ」と話した。

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