巨額赤字、開催都市ばかりが負担…見直し問う記者にバッハ氏「演説ありがとう」<検証・東京五輪>

2021年10月8日 06時00分

東京五輪のメインプレスセンターで記者会見するIOCのバッハ会長=8月、東京都江東区で(河口貞史撮影)

 「Thank you for your statement(演説ありがとう)」
 国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長は8月6日の記者会見で、皮肉を込めてそう発言した。

◆チケット収入の損失900億円 IOCに負担求めず

 発言は「ほぼ無観客になり大赤字。開催都市が全てのリスクを負う大会は見直すべきではないのか」という本紙の質問への返答。バッハ会長は続けてこう説明した。「IOCにとって中止することは簡単だった。保険をかけていたからだ」
 発言は、中止しても構わなかったという意味に取れる。大会組織委員会幹部は「赤字補填ほてんはしないというIOCの意思表示だった」と受け取った。ほぼ無観客となり、東京五輪・パラリンピックのチケット収入の損失は900億円近い。それでも、武藤敏郎事務総長は先月、IOCに負担を求めない考えを示した。

◆「IOCは絶対」の開催都市契約

 根拠は、都がIOCと交わした「開催都市契約」だ。ブエノスアイレスで開催地が東京に決まった2013年9月7日、当時の猪瀬直樹都知事がサインした契約書には「IOCは本大会を中止する権限を持つ」「IOCは組織委に対して拠出金を提供する、いかなる法的義務も負わない」などと、IOCの優先的な地位が示されている。
 この契約内容は、過去の大会とほぼ同じ。「IOCは絶対。交渉の余地はなかった」。招致に携わった都関係者はそう振り返る。

◆暑さ承知の上、招致「勝つこと最優先だった」

 テニスやサッカー選手らから不満が相次ぎ、4競技で日程変更を余儀なくされた「真夏の開催」も当初から避けられなかった。「7月15日~8月31日」の開催が絶対条件だったからだ。
 世界のプロスポーツ日程と重複しないのが、この期間。IOCは放映権やスポンサー権利を高額で売却するため、プロ選手の参加や競技数を拡大しており、この期間以外での開催は難しくなっている。
 都はそれを承知の上で、開催都市に立候補した。近年は気温が30度を超す日も多いが、IOCへの報告書には「晴れる日が多く、かつ温暖」と書き込んだ。都の関係者は「うそではないぎりぎりの表現。選挙公約と同じで勝つことが最優先だった」と話す。

◆「都市にどこまで求めるのか」

 「低予算」も開催都市の選考基準。都は「可能な限り小さく」経費を見積もり、7340億円と報告した。その後、2倍超の1兆6440億円に膨らんだが、延期分をのぞけばある程度は織り込み済み。また、ピーク時、国と自治体から組織委に出向した約1800人の給与は、大会経費の枠外で税金から支払われている。
 菅政権(当時)は新型コロナウイルス感染者が急増しても開催以外の選択肢を示さなかった。組織委幹部は「国際公約した大会を中止すれば、日本の国際的地位が大きく落ちた」と説明する。もともと、無理をして勝ち取った五輪・パラの東京開催を返上する意思は、日本側にはなかった。
 五輪とは、IOCとは何か。コロナ禍で祝賀ムードが後退し、見込んだ経済波及効果を得られず、そうした疑問が強調された東京大会。組織委の中村英正大会開催統括は「コロナがなくてもどうだったのか、根っこの議論が必要。負担の総量がどれくらいで、都市にどこまで求めるのか。今後のパリ大会、ロス大会でも課題になる」と指摘した。(原田遼)
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 今夏の東京五輪・パラリンピックは、開催の是非を巡って国民の意見が割れた。コロナ禍であらためて浮き彫りになったIOCや開催都市、大会の問題点を5回にわたって検証する。

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