<中村雅之 和菓子の芸心>「まんじゅう」(東京都中野区・冨士家) 江戸から続く庶民の味

2021年10月8日 07時34分

イラスト・中村鎭

 江戸時代の途中まで、砂糖は輸入に頼っていたため高価だった。国産が出回るようになり、後期には値段が下がって菓子屋が増えた。これで菓子は、やっと町人にも身近なものになった。
 落語にもよく菓子が登場するようになる。落語に出てくる菓子は、茶会で使うような「上生菓子」ではなく、まんじゅうやだんごの類いだ。
 菓子が出てくる落語で有名なのは、何といっても「まんじゅう怖い」だろう。
 近所の暇な連中が集まって話していると、この世の中で一番怖い物は何か、という話になる。すると、一人の男が、「まんじゅうが怖い」と白状する。そこで、男をからかおう、と他の連中は、たくさんのまんじゅうを買い込んできて、男の家に放り込む。すると、男は「怖い怖い」と言いながらも、次々と食べてしまう。騙(だま)された、と気付いた連中が、取っちめると、まんじゅうで喉を詰まらせた男は、今度は「茶が怖い」と言う。
 ここに出てくる「まんじゅう」は、別に名物として知られたようなものでもない。近所の菓子屋で売っているものだ。
 東京・JR東中野駅から続く細い道にある昔ながらの商店街の中に、「冨士家」という店がある。戦後すぐの頃に開かれた店を50年ほど前に飯高喜雄さんが受け継いだ。飯高さんが奥で作り、奥さんのツル子さんが店番をしている。
 雪のように白い薄皮の所々から岩に見立てた粒餡(あん)が顔を出す「ふぶき」や漉(こ)し餡の「茶まんじゅう」。餡まで丁寧に手作りされているのに、値段は懐に優しい。江戸から続く庶民の味だ。 (横浜能楽堂芸術監督)
<冨士家> 東京都中野区東中野3の17の18。(電)03・3361・3921。ふぶき、茶まんじゅう各108円。

「まんじゅう怖い」は前座噺だが、名人も得意とした。五代目柳家小さん。


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