強権政権下、報道の自由貫く ロシアとフィリピンのジャーナリスト2人にノーベル平和賞

2021年10月9日 06時00分
 今年のノーベル平和賞は2人のジャーナリスト、フィリピンのマリア・レッサ氏(58)とロシアのドミトリー・ムラトフ氏(59)に授与されることが決まった。いずれも強権的な政権の圧力に屈せず、批判的な報道を続けた姿勢が評価された。世界がコロナ禍や紛争でますます混迷するなか、「真実を伝えること」の大切さをあらためて示した。(北川成史、モスクワ・小柳悠志)

◆レッサ氏「世界で民主主義が後退」本紙取材に懸念示す

2019年2月、フィリピン当局からの逮捕状を記者団らに示すレッサ氏=AP

 レッサ氏は1986年、フィリピンで民衆運動がマルコス独裁政権を倒した「ピープルパワー革命」の年にそのキャリアをスタート。アジアの民主化を象徴する出来事を知るレッサ氏は、米CNNテレビを経てニュースサイト「ラップラー」設立後、ドゥテルテ政権に厳しく相対した。
 2018年12月の本紙インタビューで、レッサ氏は「世界中で民主主義が後退の危機にさらされている」と現状を懸念。「『言論の自由』を抑えるために『言論の自由』を使い、法律まで武器にする」と、ドゥテルテ政権がフェイスブックを使い世論誘導している疑いを報じ、容疑者殺害も辞さない麻薬対策に疑問を唱えた。
 小柄で笑顔を絶やさないなかにも芯のある報道姿勢で、同年には米誌タイムの「今年の人」に選ばれたが、ドゥテルテ政権はレッサ氏に露骨な圧力をかけた。インタビューから約2カ月後、レッサ氏はネット上の中傷の疑いで逮捕され、疑義の多い起訴内容にもかかわらず、20年6月には有罪判決を受けた。

◆ムラトフ氏 四半世紀にわたり政権の暗部暴く

2015年10月、「ノーバヤ・ガゼータ」の編集会議でのムラトフ氏=AP

 ノーバヤ・ガゼータ(新しい新聞)のドミトリー・ムラトフ編集長(59)は、ロシアで数少ない独立系メディアのトップとして、四半世紀にわたって政権の暗部を暴いてきた。
 ノーバヤはソ連崩壊に伴う混乱期の1993年、大手紙を退職した記者らが立ち上げた。「民主化」をモットーにノーベル平和賞を受賞したゴルバチョフ元ソ連大統領(90)がパソコン八台を購入し、同紙を支援した。
 同紙の記者や職員は6人が殺害されているが、特に有名なのが、女性記者アンナ・ポリトコフスカヤ氏だ。プーチン政権批判の急先鋒として知られ、折しも7日がモスクワで銃殺されてから15年。ロシアからの分離独立を目指す南部チェチェン共和国との戦い(チェチェン紛争)を取材し、ロシア軍幹部によるチェチェン女性への性的暴行や腐敗を報じた。

◆ノーベル賞委員会「権力の乱用やウソから守ることに貢献」

 こうした犠牲の上の受賞だけに、タス通信によるとムラトフ氏は「私の手柄ではなく表現の自由のために戦って死んだ同僚たちの功績だ」とコメント。国際NGO「国境なき記者団」(本部=フランス・パリ)のクリストフ・ドロワール事務局長は8日、「危険にさらされ続けている2人を保護するためにも一刻も早く必要だった賞だ」と述べた。
 ノーベル賞委員会は2人の受賞について「自由で独立した事実に基づくジャーナリズムは、権力の乱用やウソなどから守ることに貢献している」と意義を強調した。

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