アメリカのありふれた町で 東理夫(ひがし・みちお)著

2021年10月10日 07時00分

◆知られざる史実をたどる旅
[評]川本三郎(評論家)

 西部開拓の歴史を持つアメリカは「旅をすること」で成り立っている国だと著者はいう。だからこの国を知るには旅をしなければならない。
 アメリカ文化に造詣の深い著者は車で旅をする。大都市だけではなく人口が百単位の小さな町を訪れる。モーテルに泊まる。サルーンで食事をする。図書館で町の歴史を調べる。小さな町にも図書館や資料室があるのは驚く。
 映画『明日に向って撃て!』でポール・ニューマンが演じたアウトロー、ブッチ・キャシディの足跡を追い、彼が映画のようにボリヴィアで死ぬのではなく、その後、生き延びてアメリカに戻ったことを確かめる。
 オレゴン州のペンドルトンというロデオで有名な町を訪れたことをきっかけに、ロデオで活躍した伝説の黒人カウボーイを知る。
 カウボーイというと西部劇の影響で白人を思い浮かべるが、実際には白人は少なく、黒人や先住民、メキシコ系が多かったという。こういう意外な事実は小さな町に実際に行ってみないと分からない。
 メキシコ軍と戦ったアラモの砦(とりで)のあったテキサス州サン・アントニオには、日本人が建てた碑があり、そこには『日本風景論』で知られる地理学者の志賀重昂(しげたか)の漢詩が刻まれているという。これには著者ならずとも驚く。
 シオドア・ローズヴェルト大統領は柔道好きだった。それを知った著者は大統領に柔道を教えた日本人は誰かを調べ、それが山下義韶(よしつぐ)という柔道家だったと突きとめる。
 著者の旅は探索の旅でもある。映画『夕陽に向って走れ』で描かれた先住民のウィリー・ボーイが殺人の容疑で追われた、その逃避行を辿(たど)ってみるのも密度が濃い。
 著者はアウトローに共感する。彼らはただの犯罪者ではない。法と秩序の外の世界を夢見た自由人だった、と。
 西部開拓時代のアウトローで民衆のヒーロー、ビリー・ザ・キッドの足跡を追っての旅はとりわけ感動的。
 伝えられているようにビリーは保安官パット・ギャレットに殺されず、その後も生き延びたというのだから。
(天夢人・2310円)
1941年生まれ。作家、エッセイスト。『エルヴィス・プレスリー 世界を変えた男』など。

◆もう1冊

荒このみ著『風と共に去りぬ アメリカン・サーガの光と影』(岩波書店)

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