「話が違う」感染者対応で保健所や地域医療に負担と混乱 専門家は「第5波」との関連否定も<検証・東京五輪>

2021年10月10日 06時00分

東京パラリンピックのトライアスロン会場で活動する八木正晴医師(中央)ら医療スタッフ=8月、東京・お台場海浜公園で(昭和大学病院提供)

 「陽性者は国内在住者なので、対応お願いします」。東京五輪が開幕した7月下旬、東京都内のある区の保健所に、大会組織委員会から電話がかかった。区内のホテルに宿泊する大会関係者が新型コロナウイルスに感染したので、療養の調整をしてほしいという。保健所の職員は「6月の話と違う」と拒否。だが、組織委から「最初からそういう運用だ」と押しつけられた。
 保健所職員の言う「話」とは、6月に組織委と都が作ったマニュアルを指す。大会施設の通行証を持つVIPや競技団体職員、警察官、委託業者ら大会関係者が感染した場合は、組織委が担当することになっていた。保健所の担当は、通行証を持たない都市ボランティア、観客らにとどまっていた。

◆食い違う運用…感染急増と重なり負担

 しかし8月、都から区に新たなマニュアルが届き、保健所の担当に「警察官、委託事業者」が加えられていた。つじつまを合わせるかのような対応に対し、都防疫・情報管理課は「運用の変更ではなく、開幕後多様なケースが生まれたので役割を明確化した」と説明した。
 この時期、東京では感染者が急増していた。保健所職員は「五輪関係者も感染者が増え、組織委が対応できなくなったのでは」と推測する。大会期間中、この保健所で数十人の関係者の面倒を見た。「区民の感染拡大と重なり、負担はあった」と明かす。
 一方、会場などには1日最大540人の医療従事者が動員され、選手のけがなどに対応した。1日4~5人の医師、看護師をトライアスロン会場に派遣した昭和大学病院(東京都品川区)は7月中旬にコロナ病床が埋まって対応に追われたが、派遣をやめられなかった。
 参加した八木正晴医師は「感染の急拡大時期に、病院が持つ最大パワーが落ちていた。地域医療への負担はあった」と振り返る。

◆「地域医療に支障きたさない」の約束は?

 結局、東京五輪・パラリンピックは感染拡大に影響したのか。選手、関係者で感染したのは875人。入院した25人の多くは国内在住者だったが、受け入れ先の1つ国際医療研究センター(同新宿区)の大曲貴夫医師は「想定より受診や入院は少なく、混乱はなかった」と語る。
 また、五輪で人出が増えて感染が拡大するという懸念も、政府のコロナ対策分科会のメンバーで五輪のコロナ対策を助言した岡部信彦・川崎市健康安全研究所長は「夜間繁華街の人出が開幕前より減った。第5波の引き金になったとはいえない」と評価した。
 組織委の橋本聖子会長は先月の理事会で「コロナ対策が機能し、社会の営みを継続するモデルを示せた」と誇った。しかし、少なからず現場の混乱や負担を招いたのは事実。「地域医療に支障をきたさない」とした開幕前の約束を果たせたとはいい難い。(原田遼)

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