守れ!都会のニホンミツバチ 杉並の養蜂家が保護活動
2021年10月13日 07時09分
地球温暖化や農薬の影響などで世界中でミツバチが減少する中、大都会東京の片隅で、在来種のニホンミツバチを守る活動を続けている人がいる。杉並区の養蜂家山口朝(とも)さん(56)だ。ニホンミツバチを預かってもらう「里親さん」を募る傍ら、街中を飛び回る野生のニホンミツバチを見守っている。
「大きくなっている。まぁいい感じかな」。九月中旬、同区の民家の庭先に置かれている巣箱をのぞきながら満足そうにつぶやいた。視線の先では団子状の花粉を脚に付けたニホンミツバチが慌ただしく巣箱に入っていく。
この民家に住む男性(77)は「一生懸命に花粉を運ぶ姿がけなげで見ていて飽きない」と目を細める。
養蜂目的で世界中で飼育されているセイヨウミツバチに対し、ニホンミツバチはもともと日本に住んでいる野生のハチ。体は小さく、日本の自然に適応する能力が高いそうだ。
山口さんは二〇一八年から、分蜂と呼ばれる巣別れして飛んできたニホンミツバチの群れを捕獲し、区民に飼育してもらっている。
これまで三軒の家庭に預けたが、二軒は家庭の事情で撤退し、現在、「里親」はこの民家だけ。山口さんは月に一回ほど訪れ、ハチの健康状態を確認している。
なぜ預けるのか。
「もともと山間部に生息しているニホンミツバチは密集しない。花の重複や感染病のリスクを減らすためにも距離を置いて飼育するのがいい」と説明する。
区内の公園の木にも巣をつくっているが、おとなしい性格なので「人間が手を出さなければ刺してくることはない」そうだ。
山口さんがミツバチに興味を持ったのは、今から十六年前のこと。登山中、木のうろに出入りするミツバチを見かけた。「不思議だな、かわいいな」と心ひかれ、調べるとニホンミツバチだった。
会社勤めをしていたが、プロの養蜂家の下で修業し養蜂家に転身。一四年から高尾山の近くでセイヨウミツバチを飼育し養蜂家としての一歩を踏み出した。やがて「自宅近くでもできるのでは」と考え、一六年からは杉並区内の農園で養蜂を始め、採れた蜂蜜を「西荻はちみつ」として販売している。
しばらくするとニホンミツバチの駆除を依頼されるようになった。そもそもミツバチは花の蜜を集めるだけでなく、野菜や果物の受粉を助ける、人間にとって必要な存在でもある。
「セイヨウミツバチを飼育するのは、ニホンミツバチの食べものを奪うことにもなる。野生のミツバチがいるのはそれだけ自然が豊かな証拠」と保護に乗りだした。
ミツバチへの理解を深める活動も始めている。
善福寺公園近くのカフェ「カワセミピプレット」では今年五月から、蜜ろうラップが販売されている。使われているのは、山口さんが保護したニホンミツバチから採れた蜜ろう。蜜ろうラップとは、布に蜜ろうなどを染み込ませたもので、使い捨てのプラスチックラップの代用品として注目されている。
店主のブランシャー明日香さんは「人類に貢献しているハチに思いを寄せてほしい」と話す。
山口さんも「地域で循環して、ミツバチが人の役に立つことを知ってもらいたい」と語る。
問い合わせは、インターネットで「養蜂文化情報ネットワーク」と検索を。
文・砂上麻子/写真・木口慎子、砂上麻子
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