<社説>いじめ自殺10年 悲劇繰り返さぬ現場に

2021年10月13日 07時56分
 いじめの早期発見や学校側の責務を盛り込んだ「いじめ防止対策推進法」が成立する契機となった大津市の中学二年男子生徒=当時(13)=の自殺事件から、十年がたった。残念だが、学校現場の事なかれ主義や隠蔽(いんぺい)、責任逃れなど見過ごせない体質はなお、各地で散見される。
 大津の事件では、いじめ行為を目撃した同級生らが複数回、担任に報告していたが、学校側は「けんか」と判断。救いの手を差し伸べられなかったばかりか、男子生徒の自殺後も、大津市教委は「いじめと自殺の因果関係は不明」と断じ、幕引きを図ろうとした。
 遺族側は提訴するなど、真相究明を求め、いじめを証拠づける調査結果の存在が発覚。市も最終的に、殴る、けるの暴行、ハチを無理に食べさせようとする、時計を奪って返さないなどのいじめが自殺につながったと認めた。
 文部科学省の調査によると、いじめの認知件数は右肩上がりに増え、全国で六十万件を超える。自ら命を絶つ悲劇は絶えず、少なくない事案で、学校側の対応の遅れや、いじめと認めたがらない現場の言動が目につく。悲しみにうちひしがれた遺族自らが粘り強く働き掛け、少しずつ児童、生徒や教師の重い口が開かれ、真相が明らかになることがしばしばだ。
 全国の子どもたちからの相談に応じるなど、八月に七十五歳で死去する直前まで、いじめ撲滅に奔走した愛知県西尾市の大河内祥晴(よしはる)さんは、大津の事件を聞き「何も変わっていない」と嘆息した。いじめ自殺で一九九四年に中二の次男、清輝さんを亡くしている。人を傷つける言動への教師や子どもの鈍感さを憂え、「先生の能力を超えて、子どもや社会は変化している」とも口にしていた。
 ネット上や学校で配られたタブレット端末への書き込みなど、社会の変容に合わせ、いじめも複雑・多様化し、いっそう気づきにくくもなっている。いじめの深刻度を人工知能(AI)で数値化したり、対面や電話ではなくLINE(ライン)による相談窓口を設けたり、時代に即した対処も各地で進んではいる。
 いじめはどこでも起こり得る。そのことを念頭に、取り返しの付かない結果に結び付くことだけは何としても防ぎたい。小さな声を吸い上げる工夫、兆候を見逃さない感性が大人には求められよう。

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