注目の一点(上) 伊藤若冲《象と鯨図屏風》

2021年10月14日 07時46分
 古今東西の動物画を紹介する展覧会「動物の絵 日本とヨーロッパ」(東京新聞など主催)が、府中市美術館(東京都)で開催中だ。本展の出品作のうち、特に注目の作品を同館の学芸員が3回にわたり解説する。

伊藤若冲《象と鯨図屏風》1795年 MIHO MUSEUM 左隻

伊藤若冲《象と鯨図屏風》1795年 MIHO MUSEUM 右隻(いずれも10月24日までの展示)

 この屏風(びょうぶ)が広く知られたのは二〇〇八年のこと。人気の伊藤若冲(じゃくちゅう)による大きな象と鯨の絵だけに、雑誌や本などでは、楽しいとか元気いっぱいといった解説をたくさん見た。だが、この作品と実際に向き合った時、私は深い静寂の空気に包まれた。
 象も鯨も、実は釈迦(しゃか)の臨終の様子を描いた涅槃(ねはん)図に登場する。特に鼻を持ち上げる象は、釈迦の死を嘆く図像として浸透していた。若冲は、涅槃図のあまたの生き物から、陸と海を代表するものとして象と鯨を選んだのだろう。
 時代を超えて現代人を魅了する若冲だが、その創作活動の大きな舞台は仏教の世界であり、創作の志やエネルギーは仏の世界への帰依とともにある。今年国宝に指定された《動植綵絵(どうしょくさいえ)》の三十幅にしても、釈迦三尊(しゃかさんぞん)像と一緒に相国寺に寄進され、法会の際にずらりと堂内に掛けられ、仏の空間を荘厳した絵なのである。展覧会では涅槃図も展示している。動物たちの悲しげな声を、ぜひ間近に感じていただきたい。(府中市美術館学芸員・金子信久)
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 「動物の絵 日本とヨーロッパ」は、11月28日まで、府中市美術館で開催中。詳細は公式HPで。

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