賃金水準が「相当下位」の国に…衆院選で問われるアベノミクス

2021年10月15日 06時00分
<民なくして10・31衆院選㊤くらし>
 安倍政権が始め、菅政権が引き継ぎ9年近く続いてきた経済政策「アベノミクス」はデフレから脱却し、経済を成長軌道に乗せることを目指した。だが賃上げの「不発」もあって政策の果実は働く人には届かず、格差は固定化。今回の衆院選では、再び成長と分配のあり方が選挙戦の争点に浮上した。(渥美龍太、畑間香織、山田晃史)

◆子ども手当を批判

 「『縮小均衡の分配政策』から『成長による富の創出』への転換を図ります」
 自民党は12年の衆院選公約に経済政策を抜本的に変えると明記。15歳までの子どもがいる世帯への「子ども手当」を打ち出した民主党政権の分配重視を批判し、成長第一を掲げた。
 実現に向けた「看板」は異次元といわれた日銀の金融政策だった。金融市場に流すお金の量を増やして為替相場を円安に誘導、輸出企業の収益を改善させ、賃上げ、消費の拡大へとつなげることを狙った。
 実際に企業の収益は改善した。20年度に企業がためた利益「内部留保」は12年度と比べ約6割増の484兆円に達した。しかし賃金として十分なお金が働く人に分配されることはなく、物価変動の影響を除いた実質賃金は同期間に5・6%下落。消費は停滞した。

◆賃金水準が「OECDで相当下位に」

 当初は安倍晋三首相(当時)も成長に自信を見せ、20年ごろに600兆円を目指す名目国内総生産(GDP)の目標を掲げた。しかしGDPの計算方法を変えてかさ上げしても届かない。日銀元理事の早川英男氏は「成長の基調はアベノミクス前と変わらなかった」と総括した。
 この9年間、自公政権は賃上げが重要とみて分配的な政策を取り入れてはきた。労使の賃上げ交渉に事実上介入する「官製春闘」、非正規の処遇を改善する「同一労働同一賃金」、最低賃金の引き上げーなどだ。安倍政権の中期以降に、その傾向は強まった。
 しかし賃金の上昇と成長の好循環はつくれなかった。今年1月には経団連の中西宏明会長(当時)が「日本の賃金水準はいつの間にか経済協力開発機構(OECD)の中で相当下位になった」と指摘。こうした背景もあり、岸田文雄首相は所信表明演説で「分配」と10回以上発言し路線修正をにじませた。

◆どう分配するのか

 新型コロナウイルス禍が経済を襲う中、安倍政権当初の成長・競争重視の弊害も残る。12年衆院選で自民は生活保護給付水準の1割カットを公約、一部議員らの「保護バッシング」と相まって「苦しくても生活保護だけは嫌との風潮が残った」(支援団体)。東京都内の男性(52)はツイッターで生活保護受給者と明かし発信すると「税金泥棒」など心無い反応がある。
 今回の衆院選で立憲民主党はアベノミクスを「富の偏在をもたらし貧困層が増え、格差が拡大した」と批判、低所得者への現金給付などの分配策を訴える。自民党は基本路線を「成長と分配の両面が必要」として12年当時の公約から修正し、介護士らの所得向上などを盛り込んだ。
 ニッセイ基礎研究所の上野剛志氏は「富の偏りを是正する分配は重要」とした上で「各党は配る中身だけではなく、財源も含めて政策の持続可能性を具体的に示さなければ人々の不安は消えない」と指摘した。

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