<歌舞伎評 矢内賢二>進境著しい鷹之資 歌舞伎座「十月大歌舞伎」ほか

2021年10月15日 07時16分

「太刀盗人」の(左から)尾上松緑、尾上左近、坂東彦三郎、中村鷹之資 ©松竹

 国立劇場は「伊勢音頭恋寝刃(いせおんどこいのねたば)」の通し上演。中村梅玉の福岡貢(みつぎ)はごくさらさらとして水のごとき淡白さだが、身に付いた柔らかみがジワジワとにじみ出るようでおもしろい。「油屋」でこみ上げる怒りを無理に抑えつけている具合、また「二見ヶ浦」の幕切れや殺しのカドカドの見得(みえ)の姿のよさが印象に残る。
 中村時蔵の万野(まんの)は憎々しさよりも廓(くるわ)の人らしい色気が濃く、中村扇雀の今田万次郎にいかにもこの役らしい華やかさと浮薄さがある。中村又五郎は藤浪左膳と料理人喜助の二役でキッチリと引き締まった芝居を見せる。中村梅枝のお紺は、偽りの愛想尽かしの葛藤を堪能させるにはもう一歩だが、いずれ当たり役になりそうな気配。片岡市蔵の藍玉屋北六、坂東秀調の徳島岩次が堅実。中村莟玉(かんぎょく)のお岸、中村歌昇のお鹿、中村萬太郎の奴(やっこ)林平。二十六日(十八日は休演)まで。
 歌舞伎座は第二部の「太刀盗人(たちぬすびと)」で、尾上松緑(しょうろく)のすっぱの九郎兵衛と中村鷹之資(たかのすけ)の田舎者万兵衛が、剛柔対照的な踊りで楽しませる。ことに鷹之資が進境著しく、市の賑(にぎ)わいの中での出来事をイメージ豊かに描き出す。坂東彦三郎の目代が飄逸(ひょういつ)で、尾上左近の従者までイキがそろって快い。第二部は他に松本白鸚(はくおう)の「天満宮菜種御供(てんまんぐうなたねのごくう) 時平(しへい)の七笑(ななわらい)」。
 第三部、尾上菊五郎が紅屋長兵衛を演じる「松竹梅湯島掛額(しょうちくばいゆしまのかけがく)」は、「火の見櫓(やぐら)」の尾上右近の八百屋お七がいい。人形振りに不思議な野性味があり、五月のお嬢吉三(じょうきちさ)に続いて独特の新鮮な感覚を見せる。第三部は他に「六歌仙容彩(ろっかせんすがたのいろどり) 喜撰(きせん)」。第一部は「天竺徳兵衛新噺(てんじくとくべえいまようばなし) 小平次外伝」「俄獅子(にわかじし)」。二十七日(十九日は休演)まで。(歌舞伎研究家)

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