東電に賠償責任果たせる?農産物の風評被害巡り、個別請求をないがしろ

2021年10月15日 12時40分
 福島第一原発事故の賠償を巡り、東京電力が農産物の風評被害の算定で、個別請求の農家への一部賠償を、農協(JA)など団体の請求よりも過小に評価していた。相手により対応が異なる東電に、汚染水を浄化処理した水(処理水)の海洋放出で懸念される風評被害への責任を果たせるのかと疑問の声も上がっている。(片山夏子)

「団体請求と個別請求で、賠償の算定係数が違うのはおかしい」と訴える福島県農民連の根本敬会長(右)ら=福島市で

◆JAと「係数」が違った

 「加害者である東電しか賠償額の算定が許されない。非常に不条理だ」
 福島市の梨農家阿部哲也さん(58)は9月27日、東京と福島をオンラインでつないだ福島県農民運動連合会(農民連)と東電、国との交渉で怒りを込めた。
 問題となったのは、東電が農産物の賠償に用いる「全国平均価格変動係数」の扱い。事故前の基準単価と販売単価の差額で賠償を算定しているが、2019年からは事故後の市場動向を反映させるため、東電が梨など品目ごとに統計を基にした係数を算定。毎月変わる係数を基準単価に掛けて「風評被害がない場合の単価」に調整する。例えば係数が「150%」だと、基準単価は1.5倍となる。
 阿部さんらは、どの農家にも同じ係数が使われていると考えていた。しかし、JAによる団体請求とは係数の扱いが異なっていた。

◆賠償額がゼロとされた例も

 農民連は5月、公表されている係数表の表記「◆100%」に疑問を持ち、東電に説明を求めた。東電によると、取引量が少ない月で係数が「200%」を超えたり「50%」を下回ったりした場合、正確な値が分からないとして「事故前の基準単価と同じ」になるよう修正したことを指す。
 農民連の指摘を受けた東電が調べてみると、取引量の多い月でも同じように係数を修正していたことが判明した。これは個別請求だけで起きており、JAによる団体請求では「218%」など修正前の値(生値)を係数に使っていた。
 生値の係数を用いれば基準単価が2倍以上になるはずだったのに適用されず、1カ月分の賠償で約100万円少なかったブドウ農家や、損害がゼロとされた例もあった。東電は、果樹農家約10人に計約500万円の追加賠償をすることになった。

◆「賠償に向き合う姿勢も適格性ない」

 「故意にしたものではないが、市場動向を適切に反映していなかった」と、東電福島原子力補償相談室の平沢朋部長は交渉の場で謝罪した。だが、団体請求と扱いが異なる理由を問われても「団体と個別に協議しているので詳細は言えない」と口を閉ざした。
 一方、JA福島中央会の田部政幸損害賠償・補償対策課長は取材に、当初東電から個別請求と同じ説明を受けたが、「しゃくし定規に一定数値で切ると公平性に問題が生じると考え、原則的に生値を使い、異常値が出たら協議することになった」と明らかにした。
 福島県農民連の根本敬会長(65)は「こちらが気付かなかったらそのままになっていた。国もきちんと東電を指導すべきだ」と訴える。農民連の代理人、馬奈木厳太郎弁護士は「東電は少数者をないがしろにしている。(処理水の)海洋放出でも風評被害対策に万全を期すというが、賠償に向き合う姿勢も適格性がないのは明らかだ」と話す。
 東電は迅速できめ細かな賠償の徹底などを「三つの誓い」に掲げる。だが賠償を求める裁判は各地で続いており、被災者が苦労しなければ、泣き寝入りせざるを得ない状況にある。
 東電は8月、処理水の海洋放出で風評被害が起きた際の賠償方針を示し、期間や地域、業種を限定せずに統計などで損害を確認するという。ただ、事故を起こした東電が被害額を算定する仕組みは変わらない。

◆賠償は「誓い」と懸け離れている

 「最後の一人が新しい生活を迎えることができるまで、被災者に寄り添い賠償を貫徹する」-。原発事故を起こした東京電力は、被災者への損害賠償の姿勢をそう掲げるが、実態は大きく異なる。国の賠償基準「中間指針」を盾に請求を拒否する例が多い。福島第一原発の処理水の海洋放出を巡って新たな賠償方針を打ち出したが、従来の姿勢を改めようとはしない。
 東電は2014年、賠償姿勢を示した「三つの誓い」で(1)最後の一人まで賠償貫徹(2)迅速かつきめ細かな賠償の徹底(3)和解仲介案の尊重ーを約束した。
 だが、短期間での賠償を図るはずの裁判外紛争解決手続き(ADR)では、東電が原子力損害賠償紛争解決センターによる和解仲介案を拒否し、被災者への賠償を渋るケースが続出。18年以降、計55件の手続きが打ち切りとなった。
 東電は8月に発表した処理水の海洋放出で風評被害が起きた際の賠償方針で、従来は被災者側が損害を証明しなければならなかったのを、東電が公表されている統計データなどを使って損害の有無を確認することに変えるとした。福島復興本社の高原一嘉代表は「苦労をかけてしまったことを反省し、負担を軽減する」。ただ、被災者による多くの民事訴訟で不十分と指摘されている中間指針を基本にする姿勢は変えない。(小野沢健太)

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