<視点>首相の「聞く力」は本物か?沖縄・辺野古新基地建設が試金石 政治部・山口哲人

2021年10月16日 12時00分

米軍普天間飛行場の移設先として、工事が進む沖縄県名護市辺野古の沿岸部=11日

 沖縄県の米軍普天間ふてんま飛行場(宜野湾ぎのわん市)の移設に伴う名護市辺野古へのこの新基地建設について、岸田文雄首相はこれまで通り推進する構えを崩さない。政府は、沖縄戦の遺骨が混じる恐れのある本島南部の土砂を辺野古の埋め立てに使う方針を示し、さらに県民感情を逆なでしている。県議会は今年4月、新基地推進の自民党を含め全会一致で土砂の採取に反対する意見書を可決した。「人の話を聞くことが特技」という首相は、沖縄の声に耳を傾けることができるかが早速、問われている。
 首相は10月8日の所信表明演説で「辺野古沖への移設工事を進める」と強調。13日の参院本会議では「先の大戦で凄惨せいさんな地上戦を経験した沖縄では、今なお戦没者の遺骨の収集が進められ、ご遺骨の問題は大変重要だ。こうしたことを踏まえ、埋め立て土砂の調達は防衛省が適切に判断する」と述べた。
 遺骨問題は重要としながらも、対応を役所任せにして主体的に判断しようとしない首相の姿勢は、県民感情を本当に理解しているのか疑問が残る。そこで、南部の糸満市と八重瀬やえせ町を土砂採取の候補地にする計画になぜ県民は憤るのかを伝えたい。
 先の大戦で地上戦が展開された沖縄戦では、旧日本軍が本土決戦までの時間を稼ぐため、司令部を南部に移して徹底抗戦。避難していた多くの住民が戦闘に巻き込まれ、至る所で遺体が野ざらしになった。遺骨収集作業は毎年、行われているが追い付かず、戦後76年の今も2800柱以上の兵士や住民の遺骨が家族の元に返っていない。
 県民にとって南部は慰霊の特別な場で「沖縄戦跡国定公園」。「犠牲者の遺骨が入った土砂を埋め立てに使用することは人道上、許されない」(県議会意見書)というのが県民の切なる思いだ。
 収骨を進めるのも、そう簡単ではない。私は遺骨を掘り起こす男性ボランティアに、遺骨が混じる土砂の写真を見せてもらったが、遺骨と、小石やサンゴの見分けが全く付かなかった。砕けて細分化された遺骨は色も形も完全に周りと同化し、判別するには長年の経験が必要だ。

山口哲人記者

 また、政府が土砂の県内調達にこだわる理由に挙げられるのが、故・翁長おなが雄志たけし前知事時代の2015年に沖縄の貴重な自然環境の保護を目的として施行された外来生物の侵入防止に関する県条例だ。条例施行により、知事は県外から持ち込んだ土砂の防除を事業者に命じたり、使用中止を勧告できるようになった。政府は昨年4月に設計変更を県に申請したが、この規制をかいくぐるために南部を候補地に加えて県内調達の比重を高めたと見る向きは多い。
 首相は「沖縄担当相を経験した人間として、地元の思いに寄り添いながら対話を続けたい」と言う。それならば県民に寄り添った「答え」を出してほしい。

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