<社説>トヨタ労組候補 有権者不在の不戦敗だ

2021年10月16日 06時48分
 トヨタ自動車系労組が、十九日に公示される衆院選で、トヨタのお膝元である愛知11区(愛知県豊田、みよし市)に組織内候補を擁立しない方針を明らかにした。
 二〇〇三年以来、六回連続で当選し、既に立候補を表明していた前職の古本伸一郎さん(56)は出馬せず、長年にわたってトヨタ労組系候補と自民党候補が対立してきた構図は崩れる。
 組合員三十五万人と傘下でも最大規模の全トヨタ労働組合連合会(全ト)が、その金城湯池で決めた方向転換は、その上部組織で、旧民主党系候補を支援する連合にとっても大きな衝撃だ。
 背景にあるのは、脱炭素時代を迎えて、自動車産業が世界的に一大転換点に入っていることだ。カーボンニュートラル(温室効果ガスの排出ゼロ)を見据えた産業政策などにからんで、全トは今年一月、これまでの旧民主党系一辺倒ではなく、与党を含めた超党派の議員と連携する方針を正式決定していた。今夏には、自民愛知県連の国会議員と初めて意見交換会を持つなど、与党への接近が目立っていた。自民候補を利する形になる今回の「不戦敗」は、一連の政治姿勢の転換を決定付けるものと映る。
 〇九年の衆院選では全十五選挙区を制するなど、かつては「民主王国」ともいわれた愛知県。しかし、その旧民主勢力を支えた最大労組の変容は、連合愛知にも、連合愛知を支持組織と頼む立憲民主や国民民主など野党勢力にとっても痛撃だ。
 前職の古本さんは「愛知11区は自動車産業が直面する課題に取り組む責任が特に重い。地域を二分する政党間の争いに終始すべきではない」と、トヨタやトヨタ系企業の工場などが集積する選挙区の特殊性を強調した。さらに全トは、自主投票の11区以外では、これまで通り、旧民主系候補を応援するという。今回の決断は、11区の議席争いから退くことを与党に示すことで「融和姿勢の象徴」とする狙いがあるようにもみえる。
 いずれにしても、これまで11区でトヨタ系労組の候補者を支持してきた有権者にとっては、自民への対抗勢力として選択してきた面が強く、いきなり、はしごを外されたような思いだろう。総選挙の直前に有力な選択肢が失われた形で、有権者不在の政治劇というほかない。

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