つつまし酒 あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン パリッコ著

2021年10月17日 07時00分

◆創意工夫で「飲みの愉楽」死守
[評]平松洋子(エッセイスト)

 こんな言葉がある。
「酒は憂いの玉箒(ははき)」
 中国宋代の文人、蘇東坡(そとうば)による詩の一句で、「酒は心の憂さを払うすばらしい箒のようなもの」。「なぜ酒を飲むのか」と聞かれたら、このひと言で切り返せば問答無用だ。
 しかし、酒場ライターを任ずる著者はその上をゆく。
「我々酒飲みはっきり言ってしぶといですよ」
 公に飲酒を禁じられた状況下、あの手この手を繰り出して酒の喜びを死守した一年間の記録。「つつまし酒」と謙遜するけれど「しぶとさ」が生む創意工夫に目を見張る。
 備蓄庫整理を兼ね、自宅に保存中の缶詰を焼き網にのせて熱する「缶ベキュー」。曲げわっぱの弁当箱につまみを詰める「わっぱ飲み」。自作の浅漬け各種を片っ端から賞味。自宅のベランダに人工芝を敷いて野宿気分。野点(のだて)ならぬ、オリジナルの「野酒(のざけ)」。欲望のまま商店街で惣菜(そうざい)を買い集め、白飯にのせてつまみ作り…くじ引きの箱から執念の当たりを引くようにして、酒に愉楽をもり立てる。
 未知の道具にも前のめりで挑む。ホットサンドメーカー。百均で買った鋳物プレート。リサイクルショップで掘り出した「たぬきッチングッズ」を活用、自室で陶板焼き。つつましいのでも、いじましいのでもない。自分を開放すれば、身辺はおもちゃ箱に変わる。その展開を、著者はひとつひとつ実証的に試し、記録しながら、心境の変化や発見をつぶさに描いてゆく。
 「カイワレ日記」に心を動かされた。カイワレを「まったく知らずに四十年以上生きてきてしまった」が、「公開ZOOM飲み会」で存在価値を教えられ、半信半疑でカイワレの道へ。この柔軟さがあればこそ「どんぐりを肴(さかな)に飲みたい」欲望もかなえてしまう。あくの少ないスダジイを拾って、乾煎(からい)り。「夢のような美味(おい)しさ。うまいな〜、どんぐり!」。お薦めのプレーンなチューハイ片手に、私も縄文人になりたい。
 酒は憂いを一掃するが、と同時に磨くのは飛躍力、生活技術、実践力だと知る。
(光文社・1650円)
1978年生まれ。酒場ライター、DJ、漫画家。著書『天国酒場』など。

◆もう1冊

太田和彦著『家飲み大全』(だいわ文庫)。「家飲みのすべて」を語り尽くす。

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