<食卓ものがたり>潮の香広がる みそ濃厚 ワタリガニ(愛知県南知多町)

2021年10月16日 07時38分

水揚げされたワタリガニが並ぶ愛知県南知多町の豊浜漁港

 振り上げた爪の大きさに目がくぎ付けになる。九月下旬、愛知県南知多町の豊浜漁港を訪れると、甲羅の幅が二十センチ前後ある生きのいいワタリガニがずらりと並んでいた。二〇一九年の国の統計によると、同県のワタリガニ水揚げ量は五百三十二トン。一四年以来の全国一位に返り咲いた。中でも知多半島は中心的な産地だ。
 ワタリガニは年中とれるが「九月から十一月までは雄が旬。みそがたくさんでおいしいよ」と教えてくれたのは、同町で旅館大漁園を営む元漁師、高浪達明さん(81)。ゆでられて真っ赤になった甲羅を外し、黄色がかったみそを口に入れると、潮風を凝縮したような濃厚な味わいが広がる。真っ白な身は、甘味があって食べ応え満点だ。
 雄のシーズンが終わると、春頃までは雌が旬。甲羅の中に内子と呼ばれる卵を蓄え、雄とはまた違う味が楽しめる。漁法は主に、袋状の網を海底まで入れて船で引っ張る底引き網と、かごの中にえさを入れて誘い込むカニかごの二種類。漁師の田中準さん(46)によると「底引きでとれるのは大半が雄、かごは八割が雌」だ。「どうしてなのかは分からない」と笑う。
 カニはとれる量の変動が大きいという。近年続いている豊漁は、一九八五年から始まった県の稚ガニ放流や、育つ場所となる干潟の造成といった努力が実を結んだとされる。ただ、いつまでも同じ状況が続くとは限らない。知多半島では特産のアナゴの漁獲量が徐々に減っていて「同じようになったら?」と不安を訴える声もあるという。
 そこで、漁師たちも旬の時季以外の雌や小さいカニはとれても海に戻したり、漁に出る日数を自主的に抑えたりと地道に取り組む。田中さんは「ワタリガニを未来の食卓に残すため、みんなで力を合わせている」と胸を張る。
 文・写真 海老名徳馬

◆味わう

 ワタリガニの標準和名は「ガザミ」。愛知のガザミは、各都道府県の漁連・漁協が「本当においしい魚」として選ぶ「プライドフィッシュ」の一つだ。
 南知多町の飲食店では主に塩ゆでが味わえる。「一番味が分かる料理」と高浪さん。大漁園では、塩ゆでに加え、アナゴや車エビなどが一緒に楽しめるコースが人気だ=写真。
 ワタリガニの価格は、季節や漁獲量などで変わる。豊浜漁港の市場に併設された「豊浜魚ひろば」ではこの時季、体長20センチほどの生のカニが1匹1000〜1300円で手に入ることが多いという。

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