<わけあり記者がいく>難病にも安心なコロナ薬 検証重ね「ゆっくり急げ」

2021年10月20日 09時16分

三浦記者が1日に飲んでいる薬

 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、各製薬会社は、一日でも早くと、ワクチンの開発競争に全力を挙げた。これにより、数十億の人類が命の危機から救われたとされる。新薬への取り組みも毎日のように報じられている。しかし、パーキンソン病を患う「わけあり記者」こと私、三浦耕喜(51)としては、若干複雑な思いを禁じ得ない。ただ早ければいいってもんじゃなかろう、と。
 この病を得てから、難病を抱える方と話す機会が増えた。取材というより、同病の大先輩にアドバイスをしてもらっていると言った方が正確だろう。やはりというか、昨今の話題の中心はコロナ対策だ。「ワクチンを作るというが、私たちの事情も十分くんでくれるのだろうか」。そんな漠然とした不安を、あちこちで耳にした。
 俗に「食い合わせ」という言葉がある。「ウナギと梅干し」が代表例だが、食べ物には相性の悪い組み合わせがあって、同時に食べない方が健康に良い、という考え方だ。江戸時代の権威ある医学書にも書かれている。現代では科学的根拠がないとして「食い合わせ」は迷信とされているが、その代わり、新たな脅威として注目されているのが、薬の「飲み合わせ」だ。
 難病は、原因が分からないため、治療法も確立されていない。ただ、薬をうまく使えば、不快な症状を和らげることはできる。そうやって一錠、また一錠と増やし続けた結果、大量の薬を処方されることに。私の場合は、脳内の神経伝達物質を増やす薬、一日六錠がメイン。その他は、メインの薬の効能を長持ちさせたり、寝付きを良くしたりする薬で、毎日十二種類、四十個を飲んでいる。
 各種の薬が仲良く患者に仕えているうちはいいのだが、数が集まれば、反りが合わずにけんかを始め、重い副作用をもたらすリスクは高まる。
 希少な病気とはいえ、命にも関わる。なので、各製薬会社は新薬の開発に当たり、難病患者に投与しても影響がないか、時間をかけて検証する。患者は皆、自分に合う薬を探すのに苦労している。そのことを知ればこそ、慎重に進めるのだ。
 だが、今回は世界中を巻き込んだパンデミック。百人を救うか、一億人を救うかの問いに疑問を差し挟むのは難しい。
 ある外資系製薬会社の関係者は「『急げ、急げ』という雰囲気で、ワクチンや治療薬と難病との関連にまで頭が十分に回らなかったのでは」と話す。難病などの希少な病気の場合、例えば日本人の臨床試験データが足りなければ、「民族的要因」の近いアジア人のデータを引用できることなどが、厚生労働省の指針でも認められているという。
 患者数が少ない難病の研究は、なかなか製薬会社の利益にならない。難病への取り組みは、やはり政府が利するところを開き、各社を誘導する戦略を練るほかないだろう。
 確かに今回はワクチンも治療薬も急いで大量に作る事情があった。だが、コロナとの戦いはなお続く。資本の大きさや人材の多さにあぐらをかけば、やがて、その会社への信頼は消滅しかねない。そのことは、約三十年前に「薬害エイズ事件」で実証済みだ。急いでいる時こそ、細やかに。西洋の箴言(しんげん)から一節を献じたい。「Make haste slowly(メーク・ヘイスト・スローリー)」。直訳すると「ゆっくり急げ」という意味である。
<パーキンソン病> 脳内の神経伝達物質ドーパミンを作る細胞が壊れ、手足の震えや体のこわばりが起きる。多くが50代以上で発症し、国内の患者数は約16万人。厚生労働省の指定難病で、根治療法はなく、ドーパミンを補う服薬が治療の中心。服薬は長期にわたり、経済的負担も大きい。
<みうら・こうき> 1970年、岐阜県生まれ。92年、中日新聞社入社。政治部、ベルリン特派員などを経て現在、編集委員。42歳のとき過労で休職し、その後、両親が要介護に。自らもパーキンソン病を発病した。事情を抱えながら働く「わけあり人材」を自称。

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