「彼女は歩いていただけなのに」帰宅途中の女性を警察官が拉致、殺害 続く性暴力事件に英社会の怒り沸騰

2021年10月20日 12時00分

サラ・エバラードさんが拉致された現場付近=ロンドン南部で(加藤美喜撮影)

 英ロンドンで帰宅途中の女性を拉致、殺害した罪で9月末、警察官の男が終身刑判決を受け、英社会に衝撃と怒りが広がっている。同月中旬には女性教師が自宅近くで殺害される事件も発生。女性が1人で自由に街を歩けないことへの憤りが広がり、警察改革と女性の安全を巡る議論が湧き起こっている。(ロンドン・加藤美喜)

サラ・エバラードさん=ロンドン警視庁提供

 ロンドン南部の住宅街で今年3月、友人宅から歩いて帰宅途中のサラ・エバラードさん=当時(33)=が現職警官の男に職務質問を装って足止めされ、拉致、性的暴行の末に殺害された。後に殺人容疑などで逮捕されたウェイン・カズンズ被告(48)は、警察の身分証を見せた上で新型コロナウイルスの規制違反であると偽り、手錠をかけて連行し、犯行に及んだとされる。
 9月末の判決で裁判官は「被害者には何の落ち度もない」とした上で、周到に準備をして警察官の立場を悪用した点を重視。英国では最も重い仮釈放なしの終身刑を宣告した。

エバラードさんを殺害した罪などで終身刑判決を受けた警察官のカズンズ被告=ロンドン警視庁提供

 被告は過去に複数の公然わいせつ容疑事案を起こしながら立件されず、事件当時は国会議員警護の職務に就いていたことも判明。警察内のチェック体制や身内への甘さが指摘された。
 9月中旬には、ロンドン南東部で小学校教師サビナ・ネッサさん=当時(28)=が自宅から歩いて5分の店に行く途中で行方不明となり、翌日遺体で発見された。殺人容疑で逮捕された男(36)はネッサさんと面識がなかったとされ、女性を獲物とするような犯罪に再び世間の怒りが沸騰した。
 会員制交流サイト(SNS)上では「彼女はただ歩いていただけなのに」「通りを取り戻せ」「もうたくさんだ」などのハッシュタグが拡散。背景には、性暴力での起訴率が低く、女性の訴えが長年軽視されてきたとの思いがある。

サビナ・ネッサさん=ロンドン警視庁提供

 ロンドン市内の公務員エリンさん(25)は「事件は警察の女性蔑視の体質を浮き彫りにした。警察の権限強化は被告のような男に力を与えるだけなので反対だ。もっと女性の声を警察行政に反映させてほしい」と話す。英中部シェフィールド市の大学講師レミさん(26)も「こういう事件が起きると女性は夜に1人で歩くなとか、女性の側が負担を求められる。女性よりも暴力的な男性の行動をどうにかすべきで、教育も重要だ」と取材に意見を寄せた。

事件当夜、監視カメラがとらえた帰宅途中のエバラードさん。この後まもなく拉致、殺害された=ロンドン警視庁提供

 ロンドン警視庁は事件後、街灯や監視カメラの増設、私服警官のパトロール増加などを決めたが、女性団体「ウィメンズ・エイド」のファラ・ナジア代表は「表面的な措置にすぎず、もっと包括的な暴力防止策が必要だ」と訴える。
 エバラードさん事件を巡っては、北部ヨークシャー警察の署長が「彼女は抵抗すべきだった。女性はもっと抜け目なく行動しなければ」と被害者に責任を転嫁する発言をし、批判を受けて今月辞任した。女性初のロンドン警視庁トップで同性愛者を公表し、多様性の実現が期待されていたクレシダ・ディック警視総監(61)にも、信頼失墜で辞任を求める声が上がっている。

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