「繊細さに心が震える」葉っぱを使った精密な切り絵 アーティスト・リトさんが作品に込めた思いとは

2021年10月20日 11時30分

リトさんの葉っぱ切り絵作品「バス、まだかな・・・?」=作品集「いつから君のそばにいる」(講談社)より

 葉っぱを使った精密な切り絵に取り組むアーティストの「リト@葉っぱ切り絵」さん(35)=本名・橋本賢治さん、横浜市=の作品が、インスタグラムなど会員制交流サイト(SNS)で人気を集めている。発達障害の一つ、注意欠陥多動性障害(ADHD)と診断されたことがきっかけで、アートの道に入って2年半ほど。「同じ障害で生きづらさを感じる人たちのロールモデル(模範)になりたい」と、ほぼ毎日のように投稿を続ける。(曽布川剛)
 「お芋さん、もういいかい?まーだだよ」と題し、10日に投稿した作品。森でクマが落ち葉を集め、ネズミが焼き芋を作っている情景を、葉っぱの上半分を切り絵にして表現している。

葉っぱ切り絵で人気を集めるリトさん

 返信欄には「造形の繊細さに心が震える」と技巧に驚くものから、「ホンワカして癒やされる」「子どものころにやった焼き芋に思いをはせた」といった共感まで。「見る人に楽しんでもらうことが最優先」という題材の多くは、バス停に並んで待つカエルや、餅つきしながらお月見するウサギなど、季節に合わせた絵本のようなオリジナルだ。
 葉っぱにペンで下描きし、ナイフで切り抜く。0.1ミリでも切る場所がずれると台無しだが、ADHDの特徴である特定の物事に対する集中力やこだわりを生かし、構想から丸1日で仕上げる。昨年1月から葉っぱ切り絵の投稿を始め、大小の魚が泳ぐ水族館を切り出した1枚をきっかけにフォロワー数が急増。今は30万を超える。今年1月に福岡市で初の個展を開催。5月に東京、8〜9月に愛知県田原市、今月は大阪など全国で個展を開いており、既に作品集も発売している。
 自身のADHDを疑い始めたのは、仕事がうまくいかず転職を繰り返していた2018年。大学卒業後に7年勤めたすしチェーンでは、回転すし店ですしを握りながら、矢継ぎ早に飛ぶ客の注文に応じるのが難しかった。ADHDの診断を受け、勤務先の和菓子店に伝えても、事務処理ミスがあると「どれだけ伝えても『怠けているとか真剣に取り組んでいない』と思われる。そんな人間はいらないんじゃないか」と頭を抱えた。

SNSで注目されるきっかけとなった作品「葉っぱのアクアリウム」=作品集「いつでも君のそばにいる」(講談社)から

 会社勤めを断念し「どうせなら自分の得意なことを仕事にしたい」と模索。昔はプラモデルなど、細かい作業に没頭するのが得意だった。そこで19年、細かなイラストをノートにびっしり描いてSNSで発信すると好反応だった。「うまくなくても、描きまくる作業量で見せる」アートで勝負しようと決めた。スペインのアーティストに魅せられ、昨年からは、葉っぱ切り絵に専念する。
 リトさんは作品に込めた思いをこう訴える。「アート経験がなくても、この道でやっていくと決めた以上、やるしかない。仕事でうまくいかなくても、自分が悪いのではなく、場所さえ変えればきっと強みを生かせる。そんなメッセージを感じてほしい」

 ▽ADHD 自閉症やアスペルガー症候群などの発達障害の一つで、忘れっぽい(不注意)、じっとしていられない(多動性)、考える前に行動してしまう(衝動性)といった特徴がある。リトさんが作品づくりに生かす集中力も、自分ではコントロールできないほど集中してしまう「過集中」の特徴。2011年の浜松医科大の調査では、大人でも2.1%がADHDの疑いがあった。

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