再来年から高校生も裁判員に 唐突な決定に疑問の声も 法教育の充実カギに

2021年10月21日 06時00分
 来年4月の改正少年法施行に伴い、裁判員に選ばれる年齢が20歳以上から18歳以上に引き下げられる。候補者名簿の変更などを経て、実際に運用が始まるのは2023年だ。卒業を間近に控えた高校3年生が裁判員となる可能性がある。09年5月に始まった裁判員制度では大きな転換点だが、事前に周知されず、議論もなく決まったことに疑問の声が上がる。(小沢慧一)

◆専門家も「寝耳に水」と驚く決定

裁判員年齢の引き下げで問題を指摘する「裁判員ネット」代表の大城聡弁護士㊨と、「裁判員経験者ネットワーク」共同代表世話人の牧野茂弁護士

 裁判員制度に詳しい一般社団法人「裁判員ネット」代表の大城聡弁護士は今年9月、最高裁のホームページで偶然、裁判員年齢の18歳への引き下げを知った。今年7月に掲載された。「寝耳に水の話。制度に詳しい専門家に聞いても、誰も把握していなかった」
 裁判員や検察審査会の審査員は、「選挙権を有する者」から選ぶと法律は定める。16年に選挙権は18歳以上となったが、少年法の適用は「20歳未満」を維持。「少年である18、19歳が人を裁くことが妥当か」との意見が上がり、裁判員の年齢は据え置かれた経緯がある。
 今年5月、少年法改正を受けて、裁判員なども18歳以上に統一された。大城弁護士は今月、記者会見し「年齢引き下げの議論がされた形跡がない。重大な変更なのに、専門家さえ気づかないような形で決まったのは問題だ」と訴えた。

◆「社会経験ないのに加わっていいの」との不安も

 法務省の担当者は「裁判員の年齢引き下げの是非に焦点を当てた議論はしていない」と認める。20歳以上を維持したのは、あくまで少年法改正までの暫定措置と説明する。だが、裁判員制度の設計に関わった四宮啓・国学院大教授(刑事司法制度)は「国民主権に基づく制度であり、参加する国民にとって引き下げは重要な問題。国に説明責任はあった」と指摘する。
 兵庫県の女性会社員(23)は大学生だった3年前、仕事のトラブルによる同僚間の殺人未遂事件で裁判員を務めた。「社会経験のない自分が、人の一生を左右する裁きに加わっていいのか」と責任を痛感したといい、引き下げを疑問視する。
 裁判員経験者の交流団体を運営する田口真義さん(45)も「何万票中の1票を担う選挙権と、6人のうちの1人になる裁判員とは重みが違う。被告人も『ちゃんと決めてくれたのか』と不安になるのでは」とみる。

◆法教育「現状では不十分」の声も

 一方、四宮教授は「事件は社会の問題を映し出す。多様性の観点からも若者の感覚が裁判に反映されることは望ましい」と引き下げ自体には賛同する。最高裁も「裁判がより身近になるメリットがある」として今後、高校生を含む若者向けの広報パンフレットなどで周知を図る。
 カギになるのが法律の役割や意義を考える「法教育」だ。法務省は全国の高校で法教育の出前授業を行うが、実施は各校の判断。小中学校に授業を提供している一般社団法人「リーガルパーク」代表理事の今井秀智弁護士(61)は「現状の法教育は不十分。年齢を引き下げるのなら高校生全員に機会を与え、法律の問題を判断できる資質や能力を授けるべきだ」と指摘する。
 世界では、選挙権と裁判に参加する下限年齢は必ずしも一致していない。米国などは18歳で同じだが、ロシアやイタリアは25歳で、選挙権の18歳より上に設定されている。

<裁判員制度>
市民の感覚を刑事裁判に取り入れようと2009年5月に始まった。殺人、傷害致死、現住建造物等放火といった重大事件が対象。選挙人名簿から無作為抽出で「裁判員候補者名簿」が作成され、そこから事件ごとにくじで候補者が選ばれる。選ばれた候補者は選任手続きに呼ばれ、最終的に選任された6人の裁判員が、3人の職業裁判官とともに審理する。70歳以上の人や学生、生徒は辞退でき、病気や仕事、大学受験などの辞退理由も認められる。

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