<社説>熱海の土石流 命を守れなかった行政

2021年10月21日 06時51分
 静岡県熱海市で七月に起きた土石流災害=写真=で、県と市は盛り土が崩落する危険性を十年以上前から認識していたことが分かった。土地所有者側の言い分をうのみにして防止対策を求める命令の発出を見送り、結果として安全性を十分に確認しないまま問題を放置する形となった。
 当時の土地所有者は二〇〇七年に盛り土の計画を市に提出。高さ十五メートル、三・六万立方メートルの土砂を運ぶ計画だったが、実際にはその倍以上が積まれた。本来認められない産業廃棄物も含まれていた。
 県、市は〇九年に崩落の危険性を共有し、所有者側への指導を重ねたが、所有者側が一一年に防止対策を実施すると約束したため命令は見送ったという。実際には、対策工事は途中でストップ。盛り土の安全対策として最も重要な「排水設備工事」も未完成のままだった。県、市は安全対策が十分でないことを把握していたが、所有者が変わるなどの事情もあり、危険な状態は長く放置されることとなった。その結果、今年七月の長雨により、盛り土は土石流と化して住宅五十四棟を襲い、二十六人の命を奪った。なお一人が行方不明だ。この間、行政として怠慢のそしりは免れない。
 県、市側には県条例の限界を指摘する声もある。仮に条例に基づき命令を出しても、従わない場合の罰則は「二十万円以下の罰金」にとどまる。しかし、ことは「住民の生命と財産」に関わる重大案件だ。少なくとも、周辺住民に危険性が伝えられ、地域で広く共有されていればと考えずにはいられない。行政が自ら盛り土の除去や安全対策を施す代執行や、強制力を伴う法的措置を講じることも可能だったはずだ。犠牲者や遺族の無念は察して余りある。
 遺族らは元所有者らを業務上過失致死などの容疑で刑事告訴し、民事でも三十二億円の損害賠償を求め、係争中だ。県は第三者委を設置し、対応が適切だったか検証するとしているが、住民の命を守ることができなかった事実を深くかみしめねばならない。行政の責任も問われてしかるべきだろう。

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