<この声を 衆院選>医療体制 「第5波」で弱さ露呈

2021年10月21日 07時05分

重症患者に対応するスタッフたち。この患者は一時、人工心肺装置(エクモ)を装着するまで悪化した=久喜市の県済生会栗橋病院で

 この夏、越谷市の女性(61)は気が気でなかった。東京都内で一人暮らしする長男(25)が八月初めに新型コロナウイルスに感染し、入院まで一週間の自宅療養を強いられていた。「災害級」とも言われた感染「第五波」で、感染者の在宅死が相次いで報じられていたころのことだ。最悪の事態が頭をかすめた。
 保健所から長男に初めて連絡があったのは、陽性判明から三日後。すでに発熱は四〇度に達し、血中の酸素飽和度は正常値を下回っていた。せきが止まらず、声を発するのも苦しいという。「やばい、死ぬかも」。長男から届いたLINE(ライン)の短文に、どきりとした。
 翌日、女性はたまらず保健所に電話をかけた。「これでも息子は入院できないんですか」。それから三日後、長男はようやく病院へ。医師の診断は中等症2(ローマ数字の2)。点滴や鼻からの酸素吸入が効き、無事に退院できた。
 入院中、女性は空っぽになった長男の自宅に片付けに入ったことがある。ベッドの周りには、額に貼った冷却シートやペットボトルのごみが散乱していた。
 その光景を前に、思わず涙が込み上げた。「一人でつらかったんだなって。政治家は『国民の命を守る』と何度も繰り返してきたけど、いざというときを想定した体制づくりを本当にしていたのか」
 逼迫(ひっぱく)した医療現場も、もどかしさを抱えていた。
 「県からは重症患者の受け入れ要請ばかり。やむなく断ったことも度々だった」。仮設のコロナ専用病棟に七十床を備える県済生会栗橋病院(久喜市)。長原光院長(66)が第五波を振り返る。
 七月末、重症病床を二床から四床に増やしたが、すぐに患者で埋まった。人口十万人当たりの医師と看護師の数が全国最少の県内で、とりわけ北東部は医療資源に乏しい。重症病床をもう少し拡充したい思いがあっても、必要なスタッフの確保は簡単ではない。
 済生会のような公的病院や公立病院が最前線でコロナと闘ってきた一方、国が目指すのはその再編統合だ。医療費の抑制を目的とし、対象の病院は全国で四百以上。県内でも七病院が含まれる。
 国内の病院は民間経営が約七割を占め、多くは中小規模。感染者のために病棟を分けるなどの対応は難しい。そんな背景を踏まえれば、「危機管理の中核として自治体の手足となれる公立病院を地域に置いておくべきだ」。各国の医療政策に詳しい県立大の伊藤善典教授(61)はそう指摘する。
 次の第六波、さらには新たな感染症に襲われたとき、今度こそ医療は持ちこたえられるのか。長原院長は言う。「ずっと続いてきた日本の医療提供体制が、今のままでいいのか考え直さないと。その絵を描き、実行するには相当の力がいる」。政治の本気度が問われている。(近藤統義)
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 四年ぶりに行われる政権選択の衆院選。この国の問題に直面する人々が政治に届けたいと願う「声」を紹介する。
衆院選2021
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