注目の一点(中) ギュスターヴ・モロー《一角獣》

2021年10月22日 07時13分

ギュスターヴ・モロー《一角獣》1885年ごろ ギュスターヴ・モロー美術館Photo©RMN−Grand Palais/Christian Jean/distributed by AMF

 十六世紀頃まで一角獣は実在すると信じられていた。獰猛(どうもう)で俊敏なため、捕まえるのは極めて困難。捕獲の唯一の方法は、汚れのない乙女の前ではころりとおとなしくなる習性を利用して、油断した一瞬の隙をつくことだという。狩りの方法まで謎めいた魅惑の生き物である。
 そんな一角獣を描いた作品は多い。しかし「動物画」としての力強さでは、これほど優れたものは他にないだろう。裸婦にぴったりと身を寄せる一角獣は彼女を信頼しきった様子だが、こちらに向ける視線は実に鋭い。
 この青い目と目が合うと、まるで森の中で野生生物に出会った時のような緊張感を覚える。モローは定型的な表現ではなく、目の前の神秘の動物としての一角獣を描き出そうとしたのだ。
 動物崇拝を禁じたキリスト教世界では、日本のように動物を霊獣として描く伝統はない。しかし、この絵を見ると、人が動物という神秘的で不思議な存在に惹(ひ)かれることは、日本でも西洋でも変わらないのだと改めて感じる。(府中市美術館学芸員・音ゆみ子)
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 「動物の絵 日本とヨーロッパ」(東京新聞など主催)は、11月28日まで、府中市美術館で開催中。詳細は公式HPで。

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