<寄席演芸の人びと 渡辺寧久>毎週落語をお届け 小料理店「やきもち」女将

2021年10月22日 07時31分

お店で落語を届け続ける小料理店「やきもち」の女将

 東京・秋葉原。“高座のある小料理店”「やきもち」の開店五周年記念興行の高座に人気落語家の林家正蔵(58)が上がった。演目「一眼国」と「一文笛」で約一時間。同所には初登場だ。
 通常二十七人入れるが、現在は前方を空席にし三分の一での営業。赤字営業が続く中、「お客さまに感謝の気持ちを伝えたく、つてを頼り顔付け(出演者を決めること)しました。お客さまは驚いていらっしゃいました」
 女将(おかみ)(42)は笑顔でそう語る。常連客からは最近、心躍る言葉をもらった。「『女将さんの努力は伝わっていますよ』と言っていただけた。とてもうれしかったですね」
 コロナ禍による休業期間を除き、ここ五年間毎週火曜日に落語を届けてきた。女将の手料理と落語が同時に味わえる、演芸に特化した空間を根付かせた。

「やきもち」での落語会

 二〇一六年秋、「ずぶの素人で始めた」と、今だから笑って話せる三十七歳の時の転身、開店。初期費用千三百万円を投じ、「高座を作ることはマスト」の思いで、どこにもない演芸系の店づくりに取り組んだ。
 前職はテレビ局勤務。そのキャリアの中に、演芸番組「笑点」のディレクター時代がある。一年間、同番組に携わったことが、現在地へと続く源流になった。
 店頭には「昇太与利」と染め抜かれたのぼり。「桂歌丸より」と記されたのれんが、幅広い年代の客を迎える。
 「のれんを出せばお客さんが来ると思っていた」という当初の了見は外れ、「初めて家計にお金を入れられたのは八カ月後」。それでも「人件費をかけなければ生き延びていける」と考え、落語会開催日以外は、買い出しも仕込みも接客もワンオペでこなす。コロナ禍も落ち着きつつあるようにも見えるが「いつ通常に戻るのか」と不安も。
 本公演の他にも、若手の会「こんがりクラブ」を月二回、日曜日に開いている。無料で会場を提供し入場料も芸人が分配できるシステムで、芸人を支える。 (演芸評論家)

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