“南北融和”で金正恩政権の風刺作品が発表しづらくなった韓国で…脱北アーティスト専門ギャラリー開設へ「北朝鮮を知って」

2021年10月22日 17時00分
 韓国のソウルで暮らす脱北者の姜春革カンチュンヒョクさん(35)が、11月に脱北芸術家が集うギャラリーを開く。画家とラッパーの2つの顔を持ち、「同じ民族なのに、韓国人は北朝鮮に興味がない。知ってほしい」。20年前に韓国に来て抱いた思いが創作の原点だ。 (ソウル・相坂穣、写真も)

◆黒人が生み出したラップに思い重ね

ラップで「韓国男子として歯を食いしばって生きる」と歌う姜さん=ユーチューブから

 ♪生まれ変わって韓国男子/たどり着いた新しい土地/新しい人生/歯を食いしばって生きていく
 ラップの代表作「フォー・ザ・フリーダム」はそんな歌詞が続く。米国で人種差別に苦しむ黒人が生み出したラップに込められた思いが、北朝鮮で圧政に苦しめられ、韓国社会に順応しようとする脱北者に重なるという。
 北朝鮮北部の咸鏡北道ハムギョンプクド生まれ。1990年代後半、北朝鮮は「苦難の行軍」と呼ばれる食料難に見舞われ、餓死者が続出。12歳の時、両親と中朝国境の豆満江を越えた。中国東北部で約4年、公安当局の監視をかいくぐりながら農場や工場で働いた後、東南アジアを経て、韓国に渡った。

◆北の圧政や韓国での疎外感を原点に

 当時流行し始めていた韓流ドラマやKポップの自由な表現にまず驚かされた。北朝鮮では指導部を賛美するような美術や音楽しか認められていなかったことに気付き、幼いころから好きだった絵を本格的に描き始めた。

ソウル市城東区のギャラリーで10月、赤と青の胎児2人のへその緒が朝鮮半島を形作った絵画を説明する姜春革さん=相坂穣撮影

 土木作業員や中華食堂の出前などのアルバイトをしながら、中学校や高校の卒業資格検定に合格。20代半ば、韓国屈指の芸術教育機関の弘益ホンイク大で学んだ。
 「韓国では北の方言が残る私の言葉を聞いて、よそ者扱いをする人もいる。自分は何者なのか」。脱北者のアイデンティティーや幼いころに目撃した公開処刑、金正恩キムジョンウン政権への風刺などをテーマにした絵画が欧米で評価され、個展の機会にも恵まれてきた。

◆「違いを乗り越えて南北1つに」

 一方で南北融和を掲げる文在寅ムンジェイン政権下、公的な展覧会などで政治色の強い作品は敬遠されがちになった。韓国で発表の場が限られるなか、ラップを動画投稿サイトなどで公開することで存在感を高めてきた。

ソウル市城東区で10月、脱北者の芸術家が集うギャラリーの開設を姜春革さん㊨に提案した写真家の南成祐さん=相坂穣撮影

 今年初めに出会った写真家南成祐ナムソンウさん(51)から、ソウル市城東区にある撮影スタジオの一部を、脱北者の芸術家たちの作品を展示する専門ギャラリーとして使ってみないかと提案を受けた。「僕らは南北の生まれ、年齢の差を離れて、心が通じる友人だ」とうれしい言葉もかけられ、11月初旬の開業を目指す。
 ギャラリーの中心に姜さんは今の心境を描いた絵を掲げた。赤と青の2色の胎児2人のへその緒が、絡み合って1つの朝鮮半島を紡いでいる。南北が違いを乗り越えて1つになるという願いが込められている。
 ギャラリーを成功させ、新たな挑戦につなげる考えもある。祖父母が植民地時代に日本へ渡り、60年代に北朝鮮に「帰国」した元在日朝鮮人だった。「縁を感じる日本で個展を開き、北の人権状況を日本の人たちにも伝えたい」

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