個性の違い読み比べて 『国語辞典を食べ歩く』 日本語学者、漫才師・サンキュータツオさん(45)

2021年10月24日 07時00分
 愛してやまない国語辞典を、食材や料理を切り口に読み比べた。短文に込めた過不足ない語義説明にうなり、意表を突く語釈には芸人らしいツッコミを入れながら、各辞典の特色を「賞味」している。
 例えば「納豆」。明鏡国語辞典第三版の「蒸した大豆に麹(こうじ)を加えて発酵させ、香料を入れた塩汁に浸して…」とレシピまで載せる食通ぶりに目を見張り、三省堂国語辞典第七版の「蒸したダイズを発酵させた食品」とのあっさりした一文に「納豆嫌いなんだろうか」と冷やかす。岩波国語辞典第八版は「昔は藁(わら)でくるんで作った」「中国伝来で、多く寺で作られた」と歴史に詳しい。
 「辞典なんてどれも同じ、一冊あればいい、というのは誤解。言葉の正しい意味を誰も決めてないのに」
 研究者にして、漫才コンビ「米粒写経」メンバー。学と芸の両道で日本語表現を探究する専門家。早稲田大大学院時代に辞典を読み比べ、個性を発見した。「意味の記述や用例の細部まで社の編集方針が反映されていた」。辞典を読む楽しさに魅了されて収集を始め、今では明治時代の古書から各社の最新版まで約二百三十冊を愛蔵するコレクターだ。
 衣食住にまつわる言葉は日々の暮らしに関わるだけに、はやり廃りが激しい。「食」の項目を辞典で引けば、新しいものに対して辞典編集者がどう考えているかが手に取るように分かる、という。
 「ラーメン」について、三省堂国語辞典第四版(一九九二年)は「いちばんふつうの中華そば。しょうゆ味のつゆ」と簡潔だったが、第七版(二〇一四年)は「しょうゆ味・みそ味・塩味などのスープにメンマ・チャーシューなどを載せた中華そば」と修正され「とんこつ−」の用例も盛り込んだ。近年のブームで種類が多様化し、国民食になったことで起きた意味の変化を見極めた結果だ。新語造語を積極採取する同辞典らしさが出ている。
 一方で「辞典も絶対ではない」とクギも。「言葉の説明の仕方に正解はない。まずは辞典のいろいろな個性に触れて、自分の頭で考え、表現するきっかけにしてほしい」
 一八年の広辞苑第七版でサブカルチャー分野の執筆を任された。「辞典の記述は何十何百の中から選ばれ、不採用も多い。涙ぐましい努力の成果を味わい尽くして」とアピールした。女子栄養大学出版部・一八七〇円。 (栗原淳)

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