浪曲、落語、講談…創作話芸がアツい! 「新作」を紡ぐ若きクリエーター続々

2021年10月24日 07時31分

「ソーゾーシー」の(左から)立川吉笑、春風亭昇々、玉川太福、瀧川鯉八、玉川みね子。ユニットでも昇々の真打ち披露を行った=いずれも千葉県松戸市で

 落語や浪曲など伝統話芸に精進する若手の間で、創作の機運が高まっている。感性と発想力で新作を生み出す姿は、まさにクリエーター。どんな刺激的な噺(はなし)が飛び出すのかと、観客も高座に集中する。アツい創作話芸の現場をのぞいた。 (ライター・神野栄子)
 「ウノ」「サノ」「ハラ」…。創作話芸ユニット「ソーゾーシー」の全国ツアーの開幕を飾る九月中旬の千葉公演。トップバッターの立川吉笑(きっしょう)(37)は、出だしから人名らしい言葉を並べた。
 「名前の噺か?」と想像を巡らす観客たち。ギャグ漫画にも似たテンポの良さで、ウノは「右脳」、サノは「左脳」、ハラは「腹」だと気づくころには、腹の中の心臓や肝臓、さらには大腸の善玉菌まで登場させて噺をたたみかける。
 二〇一七年結成で、メンバーは春風亭昇々(しょうしょう)(36)をリーダーに、瀧川鯉八(たきがわこいはち)(40)、吉笑、浪曲師の玉川太福(だいふく)(42)の四人と、三味線方の玉川みね子(68)。「古典がスタンダード、新作は亜流と思われている状況をなんとかしたかった」と話す昇々が仲間を募った。「集団で走る安心感で創作に集中できる」という。
 奇想天外な構成、登場人物などでおかしな世界を紡ぎ出し、今秋は十七カ所を旅しながらネタを磨いている。東京公演は十二月六〜八日午後七時半、東京・渋谷のユーロライブで。
 中年主婦の高橋は、パート仲間の山本から弟子入りを申し込まれた。山本は知っていた。高橋がただの主婦でなく、会員制交流サイト(SNS)のインスタグラムに半額総菜の写真を上げる人気の「匿名主婦・只野人子(ただのひとこ)」であることを…。弁財亭和泉(いずみ)(45)は日常を切り取った噺が得意だ。
 「新作落語せめ達磨(だるま)」は奇数月、東京・中野の「なかの芸能小劇場」でメンバー数人ずつが新作を披露する。九月は和泉のほか、林家きく麿(まろ)(49)、古今亭志(し)ん五(ご)(46)、三遊亭れん生(しょう)(49)が高座に上がった。
 結成は〇六年。新作のレジェンド三遊亭円丈(76)が、弟子たちに「新作をやったら勉強になる」と促し、所属団体の垣根を越えて集結した。四人のほかに三遊亭天どん(49)=写真、古今亭駒治(こまじ)(42)、柳家花(はな)いち(39)が活動する。
 「新作作りは新しいものを探し、絶えず挑戦するということ。古典の構成、表現にも生きる」と天どん。前座や二つ目も呼んで勉強しているのも特徴だ。
 さて、「人子」に隣町のスーパーに誘われた山本。総菜コーナーのカニクリームコロッケに二割引きのシール! 伸びる山本の手を払い、「人子」は…。
 次回は十一月十九日午後七時から同劇場で。
 古典は筋が知られているが、新作は「何が飛び出すか分からないから新鮮。真剣に聴くから眠くもならない」。「せめ達磨」の公演に来場した女性会社員は、新作の魅力をそう語る。
 創作の波は落語にとどまらず、浪曲、講談にも押し寄せている。講談師神田山緑(さんりょく)(45)はビジネスものの新作講談に力を入れている。「自伝から社史、新商品に至るまで、テーマが無限にあるのが魅力。新作をゆくゆくは古典にしたい」と気合が入る。
 いずれの世界も、古典と新作の二刀流で芸に磨きをかけたいとの熱い思いが機運の高まりの背景らしい。公演はどれも、コロナ禍での制限いっぱいに客が詰めかけた。緊急事態宣言解除でアツさが増しそうだ。

1席ずつ空けて座る会場は、制限いっぱいまで客が詰めかけた

◆作った噺は磨き続けるもの

<落語評論家広瀬和生の話> 古典落語は名人上手がいて、何代もかけて磨き上げてきたが、新作の多くは本人一代のものだ。
 21世紀に入って、落語のファン層が入れ替わった。とりわけ初心者向けの落語会「渋谷らくご」(通称シブラク)が若者の間で人気が出てきた2015年以降、新作はさらに敷居が低くなり、分かりやすくなった。新作を面白くできる人が増えてきた。
 とはいえ、新作の多くは、ともすると独り善がりになりがち。そうならないためには作った噺に磨きをかけること。新作のベテランたちはそうしてきた。まず自分で聴き、観客の反応を見て、磨きをかけるに尽きる。

◆若手新作披露の会プロデュース・林家彦いち 自分の感覚を思いきりぶつけて

 創作人気の原点といえる、二〇〇三年結成の「SWA」(創作話芸アソシエーション)のメンバーで、「渋谷らくご」の一番組、若手新作披露の会「しゃべっちゃいなよ」をプロデュースする林家彦いち(52)=写真=に聞いた。 (聞き手・谷岡聖史)
 −創作の魅力は
 等身大のその人に出会えることですかね。本人しかやっていないネタだから未完成。足りない部分を想像することで、聴く人の脳も活性化される(笑)。
 −ネタ作りのコツは
 思い切りと好奇心。僕は机の上だけで書くのは限界があり、エベレスト、ミクロネシアといろいろな場所に行く。一歩外に出て、何か体験して人と出会えば、引き出しが増える。
 −後に続く若手も多い
 盛り上がっていますよね。この二十年ですごく変わった。「しゃべっちゃいなよ」には普段は古典しかやっていない人も出る。自分の感覚を思い切ってぶつけてもいいんだ、という環境づくりをしたい。
 −なぜ取り組み続ける
 共有財産である古典落語には、できない演目も増えてきている。例えば女性蔑視的な噺は淘汰(とうた)されていくのではないか。主な演目は、ネット動画などで世の中に出尽くしている。古典になりうる新作をみんなで作っていくことも必要だ。

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