週のはじめに考える 科学の声を「聞く力」は

2021年10月24日 07時37分
 気候変動研究によりノーベル物理学賞の受賞が決まった真鍋淑郎さんが、日本の科学界に対するある懸念を記者会見で表明しました。
 「科学者が政治に対して効果的に助言する米国のように、両者がもっと意思疎通すべきでは」
 真鍋さんは、研究者が好奇心に従い、自由に研究に打ち込める環境を求めて米国に移りました。
 真鍋さんの目は、日本の科学界と政府との風通しの悪さを感じ取ったようです。
 日本ではこれまで、新型コロナウイルス感染者は約百七十万人で、約一万八千人が亡くなりました。今ではワクチン接種が進んで治療薬も登場、重症者の治療法も分かってきて、感染対策の知恵も得ました。
 今後は医療態勢の強化、国民の行動抑制のあり方、経済支援策、政府と自治体との役割分担など残る課題を解決せねばなりません。

◆助言を軽視する政府

 日本を見詰める真鍋さんの指摘から読み取れるのは、もうひとつ重要な課題です。感染症への対応に関し、科学者たちの助言を政策に反映させつつ、その立場も守る仕組みが不十分なのです。
 昨年二月、当時の安倍晋三首相は専門家らの意見を聞かずに全国で一斉休校を決めました。菅義偉前首相も、専門家が疑問を呈したにもかかわらず「Go To トラベル」の継続に固執しました。
 一方で、科学者集団も役割を問われた場面があります。昨年前半、腰が重い政府に焦りを感じた専門家会議の科学者たちが対策などを積極的に提案しました。
 厚生労働省に状況の分析を助言することが本来の役割でしたが、国民には対策の責任者のように映り、批判の矢面に立たされてしまったのです。
 その反省から専門家会議は解散し、新たに法律に基づいて、政府への助言組織として新型コロナ対策分科会が設置されました。
 それでも科学者軽視と映る政府の対応は続きます。
 科学者たちは無観客での東京五輪開催を提言しました。観客を入れた開催に固執した菅氏も結局、感染拡大を受けて無観客開催を余儀なくされましたが、当初は提言公表自体に難色を示したのです。
 科学者らが、立場が守られない個人として意見表明せざるを得なくなったことは看過できません。
 気にくわない言論は封殺する。日本学術会議の会員候補任命拒否にも通じる政府の姿勢です。
 政府は社会状況を見ながら政策を決めます。助言のすべてを受け入れることはできないことも分かります。ところが政府は都合のいい助言はつまみ食いし、そうでないと軽視し、説明もしない。科学者を守り、助言の機会を保障する仕組みが手薄なのです。
 科学技術振興機構は、科学と政府の役割と責任に関する原則試案を提案しています。
 例えば「政府は、科学的助言者の活動に政治的介入を加えてはならない」「政府が入手した科学的助言と相反する政策決定を行う場合は、その根拠について説明することが必要」との内容です。
 今の政府には欠ける姿勢です。

◆衆院選でも競い合え

 本来、科学者は発生した緊急事態のリスクを「評価」し、政府はそれを基に対策を考えて実行、リスクの「管理」を担う。双方は車の両輪として協働すべきです。
 海外では科学者に政治的圧力がかからないよう、また科学的知見が不適切に扱われないような仕組みがつくられています。
 英国では、政策決定の透明性を確保し、科学者の独立性を守る原則が定められています。コロナ禍のような緊急事態では独立した科学者グループが助言します。
 昨年五月には、対策の失策を追及された閣僚が科学者の「誤り」を示唆し、責任転嫁だと批判されました。不確実な状況下で助言する責務を負う科学者を、社会が守ろうとする姿勢を感じます。
 米国は政府審議会などのあり方や科学の健全性確保の規定を整備しています。バイデン大統領はコロナ対策の専門家チームを発足させ、科学尊重の姿勢を示します。
 科学者が助言する仕組みをどうつくるのか、衆院選でも各党が競い合うべき争点です。岸田文雄首相には「聞く力」を、科学者の声にも発揮してほしいものです。
 真鍋さんの研究成果がさまざまな場面で使われているように、蓄積された科学的知見は人類の財産です。感染症対策でも生かすべき科学の知恵は多くあるはずで、それを聞く力が試されています。

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