第2次安倍政権、菅政権で軽視された「納得解」 民主主義を取り戻すのは「対話、調整、合意」

2021年10月25日 06時00分
<民主主義のあした>

民主主義について話す社会活動家で東大特任教授の湯浅誠さん=埼玉県所沢市で

岸田首相も「民主主義の危機」

 31日投開票の衆院選では、「安倍・菅政治」を継続するか転換するかも問われている。第2次安倍政権と菅政権の約9年間では、主権者である国民の理解を得ずに重要政策が進められるケースが相次いだ。十分な手間暇をかけて国民に説明し、納得を得ていくという民主主義から逸脱している。岸田文雄首相も現状を「民主主義の危機」と評した。どうすれば民主主義に基づく政治を取り戻せるのか―。
 「民主主義とは何か」を自問してきた社会活動家の湯浅誠さん(52)は、かぎとなるのは「納得解」だと説く。納得解とは、必ずしも自分の思い通りにならなくても、みんなで十分に対話して調整した結果、合意に達した結論のこと。「民主主義とは、納得解をつくるプロセス」と解説する。
 今は政治家に限らず、日本社会全体で、他者との間で納得解を見いだす文化が根付いていない。逆に言えば、「社会の価値観の根っこ」に、納得解を得るプロセスが定着していけば、政治も変わるのではないか―。湯浅さんの話を基に、「民主主義の危機」の処方箋を考えた。

ゆあさ・まこと 1969年、東京都生まれ。東大大学院法学政治学研究科博士課程単位取得退学。ホームレス支援に取り組み、2008年末、東京・日比谷公園で炊き出しなどを行う「年越し派遣村」を村長として運営。民主党政権で内閣府参与として貧困対策に取り組んだ。現在は政府の孤独・孤立対策連携プラットフォーム準備会合メンバー。認定NPO法人「全国こども食堂支援センター・むすびえ」理事長。

森友・加計問題、説明尽くされず 

 「民主主義とは、『納得解』にたどり着こうとするプロセスそのもの」と湯浅誠さん。「納得解」を理解する糸口として、湯浅さんは家族旅行を例示する。
 父は温泉、母はハワイ、姉はテーマパークにそれぞれ行きたい。自分はどこにも行きたくないと考えているケース。正解などはなく、家族で対話が始まる。よく聞いてみたら、父は、年老いた祖母が同伴できる最後の旅行になるかもしれないと考えて温泉を推していた。他の家族も納得し、温泉旅行に落ち着く―。この結論が納得解。湯浅さんは「好意的な好奇心を持って(相手の話を)聞くことが大事だ」とも助言する。
 第2次安倍政権以降、約9年間の政治で、国民との間で納得解を得る手順は軽視された。安倍政権は、違憲の疑いが指摘される安全保障関連法や特定秘密保護法を、国民の批判を押し切って制定。公正な行政がゆがめられたと疑問視された森友・加計問題や「桜を見る会」の問題でも説明を尽くさなかった。菅政権でも緊急事態宣言の下、世論や専門家の懸念を気にかけず東京五輪・パラリンピックを開催。その結果、国民の不信感は深まり、政府の自粛要請が効かなくなるなど政治が機能しなくなった。

「民主主義のプロセスはうんざりするもの」

 湯浅さんは「民主主義のプロセスは面倒で、うんざりして、疲れるもの」と分析。「対話を重んじる価値観が社会に根付いていないため、国民の中から選ばれる政治家にも、対話を軽視する傾向が見られる」とも指摘する。十分な議論と説明をして納得解を得る政治に変えていくには、まず社会の意識が変わらなければならないというわけだ。
 実は、湯浅さんが支援してきた全国の「子ども食堂」は、そうした点で社会を変える狙いも込めている。
 困窮家庭の子どもたちに食事を提供する子ども食堂は、名付け親とされる近藤博子さんが2012年に設立。この10年で、全国に5000カ所近くが開設された。今や対象者を限定せず、老若男女を広く受け入れる形式が主流。地域の交流拠点としての役割を果たしている施設が多い。
 そこに集まるのは、年齢も性別も、性格も異なる人たち。育ってきた環境も文化も異なる人たちとの交流の中で、多様な人たちとの「間合い」の取り方を学び、自分と他者を架橋する術を身につけていく。「漢方薬と同じで、即効性はない。しかし、こうした経験と価値観が国民に根付けば、政治を変える可能性がある」と湯浅さん。

「選挙後も私たちは主権者」

 衆院選に向けて、湯浅さんは「政権選択の選挙で、極めて大事。投票に行ってほしい」と訴える一方、投票した後も、政治参加の意識を持ち続けてほしいと提案する。「民主主義は日々のプロセス。選挙だけですべての物事が決まるわけではない。選挙後も私たちは主権者であり続けることは強調しておきたい」(我那覇圭、柚木まり、木谷孝洋)

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