点滴連続中毒死事件が広げる波紋 「看護師にも心のケアを」…亡くなる、怒られる、募る不安

2021年10月25日 06時00分
 横浜市の旧大口病院(現横浜はじめ病院・休診中)で、看護師が入院患者3人の点滴に消毒液を混入し中毒死させた事件が医療現場に波紋を広げている。殺人罪などに問われた久保木愛弓被告(34)は公判で「患者が死亡した時に家族から責められるのが怖かった」と動機を述べた。現場からは患者と家族に向き合う看護師のメンタルケアを求める声が上がっている。(米田怜央)

点滴連続中毒死事件 横浜市の旧大口病院で2016年9月、点滴を受けた70~80代の入院患者3人が相次いで死亡。点滴に消毒液を混入し殺害したとして、神奈川県警は病院の元看護師久保木愛弓被告(34)を18年7~8月に逮捕。今年10月1日、横浜地裁の裁判員裁判初公判で被告が殺人罪などの起訴内容を認め、22日の論告求刑公判で検察側が死刑を求刑。判決は11月9日の予定。

暴力、ハラスメント受けた半数超

旧大口病院

 「患者の症状が重いほど本人と家族からの期待は大きいが、全てには応えられない。亡くなると、助けられなかったという不全感が残る」
 関東地方の緩和ケア病棟で働いた経験のある50代の女性看護師は実感を語る。「体が痛い。生きている意味はあるのか」と訴えた患者を思い出すと、ケアが最善だったか今も不安になる。患者や家族に怒鳴られる同僚も見てきた。
 日本看護協会の2017年度調査で、過去1年間に暴力やハラスメントを受けたと回答した看護師は、2567人中、半数超の1383人。このうち、相手が「患者」と「患者家族ら」だった割合は合わせて7割を超える。
 女性は、上司らに相談するうちに「他にぶつけようのない苦しみを向けられている」と受け止めるようになった。
 「多くの看護師は悩みを共有して乗り越えている」とし、久保木被告について「事件は許されない」とした上で「孤立してしまうと患者や家族を遠ざけたくなるのは分かる」と話す。

同僚支える「精神看護専門看護師」

精神看護専門看護師として働く渡辺香織さん(右)=横浜市金沢区の横浜市立大付属病院で

 看護師の心のケアは長く課題となってきた。長時間で不規則な勤務形態も背景に、厚生労働省の20年度調査では、精神障害による労災請求件数は職種別で「保健師・助産師・看護師」が3位。対策の1つは、患者とともに同僚も支える「精神看護専門看護師」だ。
 横浜市立大付属病院(同市金沢区)では11年に資格を取得した渡辺香織さんが医師らとチームを組み、診療科を超えて精神的に不安定な入院患者や担当看護師らを支える。
 処置が正しいか相談にのり、患者の病状や性格を考慮した看護師の人員配置も助言する。
 「患者さんが亡くなると看護師は後悔が募るが、実際には適切な処置ができていることも多く、承認してあげることも大切」と話す。相談した若手看護師は「部署だけでは気付けない視点をもらえる」と語る。
 ただ、取り組みは途上だ。1996年から資格が認定された精神看護専門看護師は全国で364人。都市部の大病院に集中し、1人もいない県もある。
 聖路加国際大大学院の萱間真美教授(精神看護学)は「専門家を確保する経済的負担は大きい。相談機関と連携を強化するなど施設の規模に合わせた支援が必要」と訴える。
 目白大の伊藤まゆみ教授(成人看護学)はこう強調する。「同僚に打ち明けられずに悩む看護師は多い。ケアする側をケアすることが看護の質も高める、という理解を進め、悩みを相談しやすいシステムづくりが求められる」

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