子どもの貧困と投票率 切実な声 届ける手段 中島岳志

2021年11月1日 07時00分
 衆議院選挙の投開票日が近づいている。コロナ危機の中、私たちは命や暮らしが政治と直結していることを経験してきた。しかし、選挙への関心はそれほど高まっていない。むしろ、各種の調査を見ていると、今回の総選挙に「必ず行く」と答えた人は、前回の衆議院選挙よりも下がっている。ちなみに前回の投票率は54%。約半分の有権者が投票に行っていない。
 政治学者の中北浩爾は、『自民党−「一強」の実像』(中公新書、2017年)の中で、小泉純一郎元首相と安倍晋三元首相の選挙戦術の違いを論じている。「無党派層を重視した小泉政権は、高い支持率の下でこそ勝利したのに対し、安倍政権は低い投票率の下で勝っている」。小泉は「自民党をぶっ壊す」と気勢を上げ、無党派層の支持を獲得することで、選挙を優位に進めた。一方、安倍は選挙での争点を曖昧化することで低投票率に持ち込み、伝統的な支持基盤の固さによって勝利を収めてきた。この九年間の自公政権を支えてきたのは、投票率の低さに他ならない。
 投票率が下がり、固定票の価値が高まると、相対的に一般国民の声は政治に届きにくくなる。一部の圧力団体・業界団体の利益が優先され、政治の恩恵から疎外された人たちの苦しみは、素通りされてしまう。
 NPO法人キッズドア理事長で子どもをめぐる貧困や虐待、いじめなどの問題に取り組んできた渡辺由美子は、「親子で陽性、5日で子は3・5キロ減…コロナで広がる経済格差『貧困家庭』放置の理由」(9月7日、FRaU)の中で、コロナ下での危機的な状況を訴える。
 もともと、今の日本では困窮する子育て世帯の増加が深刻になっていた。子どもの貧困率は13・5%で、およそ七人に一人の子どもが貧困状態にある。ひとり親家庭の貧困率は48・1%と高く、先進国の中で最悪の状態だ。
 そんな中、濃厚接触や休校・休園の影響で仕事に行けない状況が生じると、一気に収入が減り、家計が成り立たなくなる。子どもが家にいると、食費がかさみ、空腹を訴えても、我慢を強いるしかない。公共料金が支払えず、電気・ガスが明日とまってしまうかもしれないという不安にさらされる。
 渡辺は、困窮する子どもたちへの現金給付を訴えた。政治家にも話をした。政治家は、その場では「なんとかしたい。動いてみます」と言うものの、現金給付は決まらない。なかなか切実な声が届かない。
 ではどうすればいいのか?
 渡辺が思いついたのは選挙だった。選挙で本当に動いてくれる政治家を増やさなければならない。そのためには、投票率を上げなければならない。政治に対してあきらめてしまっている人たちが、投票の主体にならないと変わらない。
 そう考えた渡辺が、仲間と共に起こしたのが、「目指せ!投票率75%プロジェクト」というキャンペーンだ。子どもの貧困問題を解決するためには、若者や現役世代の投票率の低さを変えなければならない。そのためにインターネット上で「重視している政策」を募り、その順位を公開した。何とかして投票率を上げ、政治から疎外されてきた人たちの声を反映させなければならないという切実な問いが、表れている。
 戦後すぐの公明選挙推進運動にルーツを持つ公益財団法人「明るい選挙推進協会」は、全国各地で「若者選挙ネットワーク」を組織し、小・中・高校の出前授業で模擬投票を行うなどの活動を展開している。
 投票率を上げるためには、選挙の機会だけに注目していてはいけない。選挙以外の時にも、身近な社会の問題にかかわり、自分の住む地方自治体の行政に関心を持つことが大切になる。そのためには長すぎる労働時間を軽減し、地域社会とかかわる時間を担保することが求められる。空き家活用などの生活の現場に近い問題にコミットできるルートを、無数に作っていかなければならない。
 公的なものにかかわり、異なる他者との合意形成を繰り返すうちに、私たちはその延長上にある選挙への積極的な関心を取り戻す。「選挙に行かなければならない」というお説教よりも、選挙に行く動機づけの回路を、社会の中に構築していかなければならない。(なかじま・たけし=東京工業大教授)
(紙面掲載日:10月26日)

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