調布陥没 トンネル工事にほんろうされた夫婦「弱い立場の人のための政治を」 自宅近くで市道が陥没、地下から伝わる地響き…

2021年10月28日 06時00分
<民なくして10・31衆院選>

東京外郭環状道路の地下トンネル工事の影響で陥没した市道=昨年10月、東京都調布市で

 「この1年のごたごたに正直、疲れた。長年住み慣れた地を離れる決心がついた」
 東京外郭環状道路(外環道)のトンネルを掘る大深度工事による陥没・空洞事故の舞台となった東京都調布市東つつじケ丘の住宅街。2階建ての自宅で孫らと3世代で暮らす70代の夫婦はそう語った。
 夫(74)は少年時代の60数年前からこの地に住む。20代で結婚した妻(74)と連れ添ってからは50年以上。駅近で静かな環境が気に入り、ついのすみかにするつもりで13年前、家を建て替えた。

◆「『もうやめて』と叫ぶ衝動にかられた」

昨年11月3日に地中から巨大な空洞がみつかった空き地を指さす夫=東京都調布市で

 平穏な暮らしが一変したのは昨年10月18日。東日本高速道路(NEXCO東日本)などが足元の地下約50メートルで進める掘削工事の影響で、自宅から60メートルほど南の市道が陥没。半月後の11月3日、今度は自宅前の空き地の地中で長さ30メートルの空洞が見つかった。「新幹線の先頭車両が入るくらいの大きさにたまげた。東日本高速は『トンネル工事は地表面に影響は与えない』と安全を繰り返していたのに…」
 陥没前から異変は起きていた。夫婦宅の地下を直径16メートルのシールドマシンが通過したのは昨年の9月中旬。振動に敏感な妻は9月上旬からマシンが近づいてくるのを感じ、陥没の発生で工事が止まるまでの1カ月半の間、悩まされ続けた。地下から伝わってくる「ドーン、ドーン」という地響き。「気持ちが悪くなり、『もうやめて』と大声で叫ぶ衝動に何度も駆られた」
 近所では外壁に亀裂が走るなどの損傷を受けた家も多く出た。

◆「残るしか選択肢のない人たち」も

 東日本高速はその後、シールドマシンが過剰に土砂を取り込んだ施工ミスを認め、謝罪。幅16メートルのトンネル工事ルート上の長さ220メートルの範囲で地盤が緩んだとして、2年かけて地盤補修工事と補償を行う方針を発表した。夫婦宅を含め地盤補修の対象エリアにある約30軒に一時移転や買い取りを提案。既に4、5軒が引っ越した。夫婦も買い取りに応じ、来月にも査定結果が出るのを待つ。
 夫は「わが家は契約書にはんこを押せば安全な場所へ移れるが、移転の対象外とされ、残るしか選択肢がない人たちは気の毒だ」と複雑な心情を明かす。

◆工事の根拠法を見直す動きなく

 そもそも外環道のトンネル工事は、2001年施行の大深度地下使用法に基づく。同法は深さ40メートル以上の地下について、用地買収は不要とし、公共利用を認めている。
 政府はこれまで、大深度工事が地上に及ぼす影響を否定してきた。だが、今回の事故はその大前提を揺るがしている。JR東海が27年開業を目指してきたリニア中央新幹線のトンネルも、外環道と同様の大深度工事だ。
 ただ、大深度法の在り方を巡る議論は深まっておらず、衆院選でもほとんど話題に上らない。
 「今回の事故は人災だが、コロナ禍や台風などの自然災害時と構図は似ている」。夫は言う。「被害は高齢者や弱い立場の人に集中しがちだ。政治家には弱い立場の人の側に立ってほしい」
 衆院選の投開票まであと3日。だが、辛い経験をはらむ住宅街を選挙カーが通るのは、まれだという。(花井勝規)

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