<民なくして>保育所の安心担保しない国の基準 人件費算定や配置、現場実情かけ離れ

2021年10月30日 06時00分

給食の時間、保育士は子ども一人一人に目を配り、苦手な食べ物を食べるよう促したりこぼしたものを拭いたりしていた=東京都北区で

◆実際の保育士数より少ない人件費

 「先生、絵本読んでー」「この服着たくなーい」
 東京都北区の認可保育所「つちっこ保育園」。昼どきの2歳児クラスをのぞくと、給食を食べ終わった子の声が聞こえてきた。保育士ら3人は、食器を片付け、着替えを手伝い、子どもの声に応え、息つく暇もない。
 「つちっこ」の2歳児は14人。「2歳児6人に保育士1人」という国の配置基準で単純計算すると「14÷6=2.33人」の保育士が必要。現実には、3人を配置することになる。
 ところが保育所に支給される人件費は、「2.33」人を基に計算される。保育所は元来、児童福祉の観点から設置されており、費用は子どもの数を基にするためだ。結果として、実際にいる保育士より少ない人数分の人件費しか受け取れない。
 現場の実態はさらに厳しい。「つちっこ」は、パートも含めて基準以上の職員で子どもをみている。それでも女性保育士は「もう少し人手がほしい」と嘆く。読み聞かせをせがむ子、服が気に入らず駄々をこねる子…。かまって、という声は一度に上がる。

◆基準より職員多くても「手が足りない」

 しかも新型コロナウイルスの感染対策で負担は増えた。「保護者が園内にいる時間を減らすため、着替え用の服を棚に入れるとか、布団にシーツを付ける作業も私たちがやるようになった。1日2回、おもちゃの消毒もする」
 配置基準と実情が大きく乖離する状況は統計にも表れている。内閣府の2019年度の調査によれば、全国の私立認可保育所の保育士配置状況は、国による人件費の計算上では平均11.4人(非常勤含む)だが、実際は平均15.7人(同)と大幅に上回る。
 基準より多い職員がいても「手が足りない」なら、そもそも国の基準が低すぎるのでは? こんな声は前からあるのに、なかなか反映されない。例えば、1、2歳児の配置基準は1967年から変わっていない。
 帝京大元教授(保育学)の村山祐一さん(79)は「国の基準では安定した保育所運営はできない。実態に合わせた配置基準や保育時間の長さに応じた費用の見直しの議論を」と促す。

◆現場見てほしい

 衆院選は31日に投開票を迎える。与野党はこぞって、保育士の所得向上や処遇改善を打ち出す。例えば自民党は公約に「公的価格のあり方を抜本的に見直す」と入れ、公明党は「配置基準の見直し」に言及。立憲民主党は「保育士1人当たり月額5万円の昇給実現」、共産党は「賃金の引き上げ、配置基準の見直し」を掲げるなどしている。
 「つちっこ」を運営する社会福祉法人の臼坂弘子理事長は「基準ができた頃に比べ、保育所の役割も、子どもや保育に対する社会的な評価も変わった。現状に合わせ、人の配置も見直してほしい。政策をつくる人にぜひ現場を見てもらいたい」と訴える。(奥野斐、写真も)

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