<月刊 SDGs 2021年10月号>築40年の「教室」から未来つなぐ

2021年10月30日 08時10分

 国連のSDGs(持続可能な開発目標)の目標13は「気候変動に具体的な対策を」。水害や大規模な山林火災など、温暖化は世界で目に見える形の脅威となっている。それでも十分に危機感が共有されていない中、社会を変えようと声を上げているのは若者たちだ。
 長野県白馬村の白馬高校では昨年、3年B組の教室の断熱改修が行われた。二酸化炭素(CO2)排出を抑制するには、化石燃料を使わないことも大事だが、省エネも重要なかぎを握る。中心となったのは3人の高校3年生だった。
 金子菜緒さん(18)、手塚慧介(けいすけ)さん(19)、宮坂雛乃さん(19)は、2019年6月に市民団体「Hakuba SDGs Lab」の設立会合に参加したことがきっかけで、気候変動問題などに関心を持った。
 「正直、その時は(スウェーデンの環境活動家の)グレタさんのことを少し知っていたくらいで、知識はなかった。SDGsについて一つひとつ説明されて、地球の状況はまずいんだなって思った」(金子さん)

◆3人の高校生が声 寄付集め断熱改修

昨年9月、断熱改修完了のうれしさで壁に張り付く宮坂さん(左)、金子さん(中)、手塚さん(提供写真)

 グループLINEなどで意見を交わし、理解を深めた。「雪を守る」などのプラカードを掲げて歩いた気候マーチや、気候難民支援のためのチャリティーバザーなどを重ねる中、同村も3人に後押しされる形で気候非常事態宣言を出した。
 断熱改修は、SDGs Labの勉強会で、自分たちで工事することで費用を抑えた岡山県の公立小学校の実例を知ったのがきっかけだった。3人が学校や建築家に働き掛け、村内の企業を回って寄付を集めた。
 宮坂さんは「寒いって問題じゃない?って気付いた。まず学習環境の問題があって、プラス環境問題だった」と振り返る。手塚さんも「気候変動に楽しく向き合いたかった」という。断熱改修はSDGsの「目標4 質の高い教育をみんなに」にもつながっていた。昨年9月、壁や天井に断熱材を設置するなどのワークショップを3日間にわたって行った。
 白馬高校の浅井勝巳教諭は「暖かさが全然違う。改修に熱心じゃなかった生徒も『この教室いいね』と愛着を持ってくれている」と話す。良さが伝わり、村内の小学校でも改修を計画している。
 SDGsを学べる場所として、修学旅行で訪れたいという申し込みもある。築40年の校舎の一室が未来につながるモデルルームとなっている。
 (早川由紀美)

◇ギフトをきっかけに とっつきやすい防災

◆株式会社「KOKUA」設立・泉勇作さん

「防災はいかに自然と共生していくかが本質だと思う」と話す泉勇作さん(本人提供)

 幼少期に阪神大震災を経験し、東日本大震災など各地の被災地で災害ボランティアをした泉勇作さん(29)は昨年、株式会社「KOKUA」(東京都渋谷区)を設立しました。防災グッズ専門のカタログギフト「LIFE GIFT(ライフギフト)」を販売しています。気候変動の影響もあって災害リスクが増す中、どうすれば人々の心に防災意識は根付くのか、泉さんと考えました。 (聞き手・早川由紀美)

◆震災ボランティアで理不尽さ痛感

 −阪神大震災はどんな記憶として心に刻まれていますか。
 「まだ3歳にもなっていなかったので記憶はありませんが、住んでいた神戸市東灘区は被害が大きく、自宅は半壊しました。年の離れた兄や姉は覚えていて、毎年、地震があった1月17日が近づくと『あの時、怖い思いをした』という話になりました」
 「大学入学直前に東日本大震災が起こりました。京都の大学だったので被害はありませんでしたが、入学式の会場の前で大学生が募金活動をしているのを見かけました。阪神大震災の経験もあって、自分も苦しんでいる方のためにできることはないかとボランティアを始めました」
 −ボランティアで印象に残っていることは。
 「最初に行ったのは震災から4カ月後の2011年7月。宮城県気仙沼市だったと思います。バスが被災地に近づくと、徐々に爪痕が広がっていくんですね。全てが流され道路も寸断されていました。一緒に活動した地元の人も大切な人を亡くしていたりする。でも京都に戻れば今まで通りの日常がある。災害の理不尽さを感じました」
 「竜巻や豪雨など、どの災害でも被災した人たちは『まさかこんな状態になるなんて』とぼうぜんとしていました。災害はいつ降りかかるか分からないけれど、これを伝えるのは難しい。押し付けがましいと伝わりづらい。自然と防災に触れられる仕組みをつくることが大事だと思うようになりました」

◆「大切に思っている」気持ちも贈る

 −それがライフギフトという発想に結び付いたのですね。
 「ボランティアで出会った仲間と会社をつくりました。有識者や専門家ともボランティア活動を通じてつながり、今の事業があります。ライフギフトは、防災は前面に押し出さず『あなたのことを大切に思っているんですよ』という気持ちが伝わる贈り物として販売しています。東急ハンズの全店舗で販売されているほか、契約のお礼に使ってくれた車の販売会社や、組合員に配った労働組合もあります。いろんなシーンに使われるようになると防災の接点が増えていく」
 「危機意識はあっても、防災がとっつきづらいものになっていることで結果的に行動に移っていない側面があると思います。ギフトを受け取った人から『これをきっかけに防災グッズをそろえました』という連絡がくると、ものすごくうれしいです」

東日本大震災では、のべ150万人以上のボランティアが活動した=2011年6月、宮城県石巻市で

<災害ボランティア> 1995年の阪神大震災では全国からのべ130万人以上がボランティアに参加し「ボランティア元年」と呼ばれた。同年中には災害対策基本法が改正され、国や地方自治体はボランティア活動の環境整備に努めると明記された。2011年の東日本大震災では18年までに岩手・宮城・福島3県で、災害ボランティアセンターを通じた数だけでも、のべ150万人以上が活動した。
<いずみ・ゆうさく> KOKUA代表取締役CEO。1992年神戸市生まれ。龍谷大卒業後、会社勤務を経て2020年に起業。カタログ「LIFE GIFT」には非常灯や太陽光充電ライト、避難所に持ち込むことも想定したテントなどが掲載されている。

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