米兵はなぜ裁かれないのか 信夫(しのぶ)隆司著

2021年10月31日 07時00分

◆似非法治国家の実態検証
[評]前泊博盛(沖縄国際大教授)

 いざとなったら米軍が守ってくれる−そんな安保神話の下で、対米忖度(そんたく)国家(日本)が形成されている。
 駐留米兵の犯罪起訴率は直近十九年間で17・8%。駐留米兵を除く起訴率(43・7%)の半分以下である。
 なぜ犯罪米兵は裁けないのか。その不条理の本質を徹底的に検証したのが、本書である。裁判権行使を阻む日米地位協定が日本にとって不利なら、そのもとになる日米安保条約を破棄すればよい。だが、対中、対北朝鮮脅威に対抗する手段として国民の約七割が日米同盟を評価している。
 だから安保条約を破棄するより「同盟のトゲといわれる地位協定の刑事裁判権条項の改正を目指す方が現実的」だと著者は説く。
 具体的な“同盟のトゲ”が本書の主題となる公務犯罪の決定権、刑事裁判権の放棄、身柄拘束の問題という米国が在日米軍駐留策として築いた「三つの砦(とりで)」の検証である。
 砦は、駐留軍隊に対する派遣国の専属的裁判権の行使という強固な「旗国法原理」によって構築されている。
 軍隊という性格上、指揮命令系統と法規範を旗国=派遣国軍が一括管理しなければ軍隊の本来的な機能は発揮できないという考え方である。
 一方で、駐留軍を受け入れる側は「受入国の領域内で起きた犯罪を罰する権限は、受入国にある」とする「領域主権論」で迎え撃つ。
 主権国家として、自国領域内は自国法で統治する。他国軍隊であっても「主権国家である以上、その国の治安を維持し、国民の安全を脅かす犯罪を処罰する権利がある」という主張である。
 本書は、駐留米軍と裁判権の在り方を日本と同じ対米安保を抱えるNATO各国、韓国など主要国比較を通して「対処法」を検証している。
 過去の凶悪な米兵事件を丁寧に検証し、軍事安保優先政策の下で蔑(ないがし)ろにされた国民の命、対米忖度がもたらす似非(えせ)法治国家の実態をも本書は浮き彫りにしている。
 米兵を裁けないこの国で、米兵犯罪の被害者になった時のためにも読んでおきたい。
(みすず書房・4180円)
1953年生まれ。日本大特任教授。『米軍基地権と日米密約』で櫻田會特別功労賞。

◆もう1冊

前泊博盛編『本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」』(創元社)

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