<社説>電車内また凶行 防犯対策超えた議論を

2021年11月2日 06時56分
 東京都の京王線で男が刃物を振り回し、乗客が重軽傷を負った=写真。鉄道各社は防犯対策を進めているが、完璧な対策はない。犯人を無差別攻撃に走らせる要因は何かという議論が欠かせない。
 事件は先月三十一日夜に発生した。二十代の男が刃物で乗客を次々に襲い、液体をまいて火を付けた。火は消し止められたが、重体の男性を含む十七人が負傷した。
 首都圏では八月にも小田急線の車内で、男が牛刀で女子大生らを襲い、十人がけがをした。二〇一八年には、JR東海道新幹線の車内でなたを持った男が男女三人を殺傷。一五年にも東海道新幹線で男が焼身自殺を図り、巻き添えで女性一人が死亡、二十八人が負傷する事件が起きている。
 無差別殺傷の凶行に対し、行政や鉄道各社も手をこまねいてきたわけではない。国土交通省は一八年暮れに鉄道運輸規程を改正し、未梱包(こんぽう)の刃物類などの車内持ち込みを禁じた。今年七月には、鉄道事業者が乗客の手荷物を検査できるよう法令を改正している。
 今回の車両は未設置だったが、鉄道各社は車両に防犯カメラや非常通報装置の設置を進め、警察とも訓練を重ねている。だが、膨大な利用客数を考えれば、手荷物検査などの完全な実施は難しく、防犯対策にはおのずと限界がある。
 凶行は非難されつつも、断続的に発生している。法務省法務総合研究所の報告書「無差別殺傷事犯に関する研究」によると、犯人にはいくつかの顕著な傾向がある。
 収入面で不安定な状況にあり、交友や交際関係が乏しい。恵まれない生活の中で、社会に絶望や憎しみを抱いている人物が多い。
 こうした人びとの存在は憎んでみても消えない。社会的な病理であり、どうしたら減らせるのかという議論を重ねることが大切だ。
 車内での声がけも回復したい。高齢者や体の不自由な人が立っていても、座席でスマートフォンに熱中している人びとは少なくない。互いを思いやるほんの少しの気配りは、防犯上も有効なはずだ。コロナ禍で口を開きにくい世の中だが、人の温かさは凶行を防ぐ抑止力の一つではないか。

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