<ゴッホ展 私の一枚>(1)原田マハ 自身と重ね合わせた糸杉 《夜のプロヴァンスの田舎道》1890年

2021年11月3日 07時10分

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 ゴッホは37年の生涯を閉じる半年前、南仏の小村、サン=レミ・ド・プロヴァンスの療養院にいた。アルルで自らの耳を切るという痛ましい事件を起こした後、かの地で絵を描きながら療養していた。世界中から見放されたかのごとき境遇にあって、たったひとり、プロヴァンスの自然と向き合い、月や星と対話を重ねて、傑作の数々を描き上げたのがこの時期であり、そのうちのひとつが「夜のプロヴァンスの田舎道」である。
 画中の中央では糸杉が天空に向かってすっくと佇(たたず)み、その足元を村人たちがそぞろ歩いている。馬車に乗った人はどこへ向かうのだろうか。いずれも孤独な画家の目前を通りすぎ、彼とかかわりをもつことはない。それでもゴッホは、三日月と宵の明星の輝きを惜しみなく彼らに贈った。思慮深く黙して世界を見守る糸杉は、画家が自身を重ね合わせて描いたに違いない。 (小説家)

フィンセント・ファン・ゴッホ ©Kröller-Müller Museum,Otterlo, the Netherlands

 ※次回は10日掲載。
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 12月12日まで東京都美術館(東京・上野)で開催中の「ゴッホ展−響きあう魂 ヘレーネとフィンセント」から、4人の著名人に好きな作品と感想を語ってもらう。

◆12月12日まで都美術館で

 日時指定予約制。会場で当日券若干数販売(売り切れ次第終了)。詳細は展覧会公式HP


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