泉 麻人【東京深聞】 常総の味なローカル線を行く(前編)下妻と下館
2021年11月10日 09時43分
《東京近郊 気まぐれ電鉄》 コラムニストの泉麻人さんとイラストレーターのなかむらるみさんが、電車に乗って東京近郊の街を旅する「散歩エッセー」です。
常総の味なローカル線を行く(前編)下妻と下館
秋葉原駅の中央口の広場の一角に「つくばエクスプレス」の入り口がある。アキバの省略系が定着して、AKB48の活動が始まった2005年に開通したこの鉄道は、こういうサイバームードの街の地下から発車するのがなんとなくふさわしい。
この通称TX、以前(バス遊覧の連載時)、六町 から浅草まで乗ったことがあったけれど、都心から郊外へ向かっていくのは初めてだ。
地下駅を出発した電車は北千住の手前で一旦地上へ出て、再び足立区の地下を北進すると埼玉の八潮あたりからようやく高架線が主流になる。取材当日はスッキリした秋晴れで、家並の先にポッカリとそこだけ隆起したような山が見えた。あの印象的な形は筑波山に違いない。
地下駅を出発した電車は北千住の手前で一旦地上へ出て、再び足立区の地下を北進すると埼玉の八潮あたりからようやく高架線が主流になる。取材当日はスッキリした秋晴れで、家並の先にポッカリとそこだけ隆起したような山が見えた。あの印象的な形は筑波山に違いない。
流山セントラルパーク、流山おおたかの森、柏の葉キャンパス…と、いかにもニュータウン線らしい駅名が続いて、広々とした利根川を渡った先の守谷で降車した。ここで関東鉄道の常総線に乗り継ぐ。交差する真下のホームに関鉄の可愛らしい電車がぽつんと1両停まっていた。オレンジとクリームのローカル鉄道らしい色合いをしていたが、これは会社設立100年にちなんで昭和後期(昭和40年~60年代)のカラーを復刻したもので、僕らが乗ったキハ2401号の1両だけ、ということを後から知った。
さて、今回最初の探訪地は下妻。先ほど中妻、三妻という駅を通り過ぎたが、この「妻」は西側を流れる鬼怒川の端を意味するような地名ではないだろうか。まぁ地理学的な考察はともかくとして、下妻の名が全国的に知られるようになったのは深田恭子が原宿に憧れるジモトのロリータ少女に扮した映画「下妻物語」(2004年)の功績が大きいだろう。
この駅でまず目にとまったのは、改札を出た先に設置された、プリクラ規模のカラオケボックス。ソロ活カラオケ…とでもいうのだろうか、「下妻物語」の頃にこれがあったら、深キョンがナニか歌っていたのかもしれない。
西口の「夢工場」と名づけられた商店街の通りを歩く。砂沼の方へいくこの道、沿道に古い洋館の歯科医院なんかも見受けられるが、電柱に掲げられた住所表示に「下妻 乙」などとある。下妻や次に行く下館には町名と別に「甲」「乙」「丙」という地域名のようなものが残されているのだ。東口の多賀谷城跡公園(わかりやすい土塁や堀跡の類はない)にちょっと立ち寄ってから、再び常総線に乗った。
車窓の景色は一段とのどかになってきて、低木の柿の畑が目につく。東側の窓にはTXの車中から見え始めた筑波山が近い。黒子 、大田郷なんて駅を通過して、終点の下館に到着した。この駅には、JRの水戸線と真岡 鐵道が集合している。たまにSLも走る真岡線はいつかここで乗ってみたい鉄道だ。
ちょうどお昼時、この町の下館ラーメンというのを食べてみたい、と行程を組んだ。北口に出て、好みの古建築がありそうな道を選びながら、ほぼ北進していくと、本城町の交差点のすぐ先に「盛昭軒 」という、いかにも昔ながらの町中華って感じの店がある。
壁に張り出された品書きは、ラーメン、タンメン、ワンタンメン、ワンタン…と並び、端に下館ラーメン(とり皮入り)とある。
ワンタンメンもそそられたが、やはりここは初志の下館ラーメンだろう。運ばれてきたそれをアバウトに一見すると、関東正統派のショウユ味ベースの中華そば…という様子だが、やや太目のちぢれめんと甘味のある濃い口のショウユ系スープの相性がとてもいい。そして、煮込んだ鳥皮がローカルな珍味感を醸し出している。総合的にはシンプルな中華そばだが、舌の記憶に残るコクがある。
ワンタンメンもそそられたが、やはりここは初志の下館ラーメンだろう。運ばれてきたそれをアバウトに一見すると、関東正統派のショウユ味ベースの中華そば…という様子だが、やや太目のちぢれめんと甘味のある濃い口のショウユ系スープの相性がとてもいい。そして、煮込んだ鳥皮がローカルな珍味感を醸し出している。総合的にはシンプルな中華そばだが、舌の記憶に残るコクがある。
ところで、この店の住所も「本城町」という町名が付いていながら、グルメのナビには「甲273-9」と登録されている。出際に店のおかみさんに伺ったが、その関係性はよくわからなかった。京都の「○○通り下ル」みたいなのが甲や乙にあたるのかもしれない。
なんてことを考えながら、下館の町をもう少し散策してみよう。(つづく)
なんてことを考えながら、下館の町をもう少し散策してみよう。(つづく)
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続き(後編)は、11月24日(水)更新予定です。
お楽しみに。
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続き(後編)は、11月24日(水)更新予定です。
お楽しみに。
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◇泉麻人(コラムニスト)
1956年東京生まれ。慶応義塾大学商学部卒業後、編集者を経てコラムニストとして活動。東京に関する著作を多く著わす。近著に『夏の迷い子』(中央公論新社)、『大東京23区散歩』(講談社)、『東京 いつもの喫茶店』(平凡社)、『1964 前の東京オリンピックのころを回想してみた。』(三賢社)、『冗談音楽の怪人・三木鶏郎』(新潮新書)、『東京いつもの喫茶店』(平凡社)、『大東京のらりくらりバス遊覧』(東京新聞)などがある。『大東京のらりくらりバス遊覧』の続編単行本が2021年2月下旬、東京新聞より発売された。
1956年東京生まれ。慶応義塾大学商学部卒業後、編集者を経てコラムニストとして活動。東京に関する著作を多く著わす。近著に『夏の迷い子』(中央公論新社)、『大東京23区散歩』(講談社)、『東京 いつもの喫茶店』(平凡社)、『1964 前の東京オリンピックのころを回想してみた。』(三賢社)、『冗談音楽の怪人・三木鶏郎』(新潮新書)、『東京いつもの喫茶店』(平凡社)、『大東京のらりくらりバス遊覧』(東京新聞)などがある。『大東京のらりくらりバス遊覧』の続編単行本が2021年2月下旬、東京新聞より発売された。
◇なかむらるみ(イラストレーター)
1980年東京都新宿区生まれ。武蔵野美術大学デザイン情報学科卒。著書に『おじさん図鑑』(小学館)、『おじさん追跡日記』(文藝春秋)がある。
https://tsumamu.tumblr.com/
泉麻人 著 なかむらるみ 絵
定価1,540円(10%税込)
四六判 並製 214ページ(オールカラー)
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四六判 並製 214ページ(オールカラー)
あの路線のあのツウなスポットをバスで探索する、ちょっとオツなバス旅エッセー待望の第2弾!“バス乗り”を自認する泉麻人さんが、人間観察の達人・なかむらるみさんを相棒に路線バスで東京あたりを探索。訪れたのは、有名どころから「東京にこんなところがあるの?」という場所、読むとお腹がすきそうな美味しい店や、完全に泉氏の趣味な虫捕りスポットなど盛りだくさん。面白い名前のバス停もしっかりチェックしています。
日々進化を遂げる東京(とその周辺)のバス旅、あなたも楽しんでみてはいかがでしょう。
第2弾『続 大東京のらりくらりバス遊覧』書籍の⇒ご紹介はこちらから
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