もっと若い人もきて 東日本唯一・千代田区の通信制中学が存続危機 「別科」で対象年齢引き下げ

2021年11月5日 06時00分

神田一橋中学校通信制の授業風景。生徒は月に2回登校して自宅でこなした課題を提出し、授業を受ける=千代田区教育委員会提供

 終戦直後の学制移行期のはざまで中学校を卒業できなかった人を対象とした東京都千代田区の通信制中学校が、入学対象をより若い世代に広げ来年度の募集を始めている。生徒激減で存続の危機にひんする中「貴重な学ぶ場を残してほしい」という在校生や支援団体などからの要望を踏まえ、区教委は東日本唯一の通信制中学校の存続を図ることを決めた。(小松田健一)

◆生徒数ピーク時は87人 その後減少

 戦前の学制では、義務教育は尋常小学校や国民学校初等科の6年間だった。これに対し戦後は小中学校の9年間。政府は終戦直後の1947年、学制移行期で中学校に通えなかった人を対象に通信制中学校を制度化し、一時は全国に19校を数えた。千代田区立神田一橋中学校(当時は一橋中)もその1校で、現在は同校と大阪市の1校の計2校しかない。
 通信制中学校ではそれぞれの生徒が課題を自宅学習し、月2回の登校時に担任に提出して分からない点などを教えてもらう。カリキュラムを順調にこなせば3年で卒業し高校進学を目指すこともできる。

東日本唯一の通信制がある神田一橋中学校=東京都千代田区で

 区教委によると、記録が残る55年度以降、同校の通信制の生徒数は80年前後に87人とピークに達した。しかしその後は減少が続き、現在は3年生が1人だけ。来年度に新入生がいなければ休校の可能性も浮かんでいた。

◆91歳の唯一の在校生「いつまでも通いたい」

 唯一の在校生である松村節子さん(91)=東京都新宿区=は、女学校在学中に太平洋戦争が激化し、勤労動員で都内の軍需工場で働いたため十分な学びができなかった。新聞記事で同校の存在を知り入学した。
 母校の存続が危ぶまれていることについて「知らなかったことがたくさんあり、いつまでも通いたいと思う。このシステムを絶やさないでほしい」と語る。このほか市民団体などからも要望が寄せられていた。
 区教委はこうした声を受け通信制の今後について検討。現行の募集対象では「新入生」が90歳近くになってしまうことから、新たに65歳以上で中学校で十分に学べなかった人を「別科生」として募集することを決めた。
 義務教育未修了者の支援に取り組む市民団体「夜間中学校と教育を語る会」の沢井留里さん(70)は「義務教育を終えていない人が年齢にかかわりなく教育を受けられるよう、入学要件をさらに緩和してほしい。学びの選択肢は多い方がいい」と話した。
 「別科生」は都内在住、在勤が条件。本来の対象とともに募集は19日に締め切り、12月4日に国語、算数の筆記試験と面接がある。問い合わせは同中学校=電03(3265)5961=へ。

◆拡充に否定的な国 千代田区は「高齢者の学び直しの場」

 戦後の混乱だけでなく、不登校や経済事情などさまざまな事情で十分に学ぶことができなかった人たちのための教育機関としては夜間中学校がある。2016年成立の「教育機会確保法」に就学の場として明記された。現在は12都府県に36校設置されており、文部科学省は全都道府県と政令指定都市に最低1校の設置を目指している。最近は、出身国で十分な教育が受けられなかった定住外国人も多く入学している。
 通信制中学校について文科省は「夜間中学校の補完的な存在」(教育制度改革室)と、拡充には否定的。その上で、通学困難な人が学ぶ場としては「夜間中学校でオンラインを活用するなど、学校側の柔軟な運用で対応してほしい」としている。
 一方、千代田区教委の担当者は通信制中学校の対象拡大について「高齢者の学び直しなど、生涯学習の場としても存続を図っていきたい」としている。

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