佐川急便でパワハラ、30代係長が自殺 内部通報生かせず 「企業任せ」限界露呈

2021年11月5日 06時00分
 佐川急便(本社・京都市)が東京都品川区に置く物流配送営業所の男性営業係長=当時(39)=が6月、上司2人からの度重なる叱責しっせきによるパワーハラスメントなどを理由に、営業所で自殺していたことが明らかになった。同社では内部通報があったが生かせなかった。昨年6月にパワハラ対策を大企業に義務付けた法律施行後も、働く人の自殺は後を絶たない。
 遺族代理人の川人かわひと博弁護士らが4日、厚生労働省で記者会見して公表した。

◆複数の上司が関与か 40分以上叱責も

 代理人によると、男性はドライバーの管理や営業を担当。昨年6月ごろから別の課の課長らに朝礼で叱責されたほか、社内のチャットで「なめ切ってるな」「うそつき野郎はあぶりだすからな!」などのメッセージを受けた。亡くなる前日には直属の上司の課長から電話で「うそつくやつとは一緒に仕事できねえんだよ」と言われ、机の前に立たされて40分以上叱責を受けた。男性は今年6月23日朝、勤務先の営業所から飛び降り自殺した。

◆会社は被害者に聞き取りせず

 亡くなる2カ月前、男性と同じ営業所の社員を名乗る人物が匿名で2人の課長の行為が「パワーハラスメントに該当するのではないか」と内部通報していた。だが、同社の管理部門は男性本人を含む部下へ直接調査を行わず、当事者の上司らからの聞き取りのみで、パワハラを確認できないと結論付けた。川人氏は「(内部通報の)窓口が機能しない典型例」と批判した。
 男性の死後、佐川急便は外部の法律事務所による調査なども実施。本村正秀社長が9月にパワハラの事実を認め、遺族に謝罪した。遺族側は労災の申請や損害賠償の請求などを検討している。男性の妻は「どんなに謝罪されても夫は帰ってきません。今回のことを決して風化させないでほしい」とのコメントを出した。佐川急便は本紙の取材に「再発防止に取り組む」と答えた。

◆求められる厳しい法整備

 昨年6月に施行された改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)で大企業に相談窓口の設置など対策を義務付けている。だが、佐川急便の事例では通報を受けた調査が機能せず、企業任せの限界が露呈した。企業への罰則規定など実効性のある法整備が求められる。
 パワハラについて厚生労働省は、威圧的な叱責といった精神的攻撃や身体的攻撃など6種類の該当例を示す。防止法では、パワハラ内容の周知や相談窓口設置、迅速な対応を企業に義務付けた。違反すると行政の是正指導や勧告があり、従わない場合に企業名が公表されるものの、パワハラ行為自体を禁止しておらず企業への罰則もない。
 一方で職場のパワハラは後を絶たない。各地の労働局などに寄せられた相談のうち「いじめ・嫌がらせ」は2019年度まで増え続けた。20年度は7万9190件と、相談内容別で9年連続で最多を記録。近年ではトヨタ自動車や三菱電機の男性社員がパワハラを受けて自殺し、労災認定される例も相次ぐ。
 トヨタなど多くの企業は相談窓口を設置していたが、自殺を防げなかった。政府は、ハラスメントを禁止する初めての国際労働機関(ILO)条約の批准に後ろ向きで、被害の防止は十分ではない。川人博弁護士は「ILO条約を批准してハラスメント禁止を立法化し、問題のあった会社を罰せられるようにするべきだ」と話す。(畑間香織、山田晃史)

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