「本当の親に会いたい」病院で取り違えられた男性、東京都を提訴 調査求める

2021年11月6日 06時00分
「本当の親に会いたい」と語る江蔵さん=東京都千代田区で

「本当の親に会いたい」と語る江蔵さん=東京都千代田区で

  • 「本当の親に会いたい」と語る江蔵さん=東京都千代田区で
  • 生後8カ月の江蔵さん=本人提供
  • 幼稚園に通っていたころの江蔵さん(左)と、育ての父(江蔵さん提供)
  • 幼少期の江蔵さん(右)と、育ての母(江蔵さん提供)
 出生した東京都立墨田産院(閉鎖)で他の新生児と取り違えられた東京都足立区の自営業、江蔵智さん(63)が5日、実親の所在調査などを都に求め、東京地裁に提訴した。出自を探して17年。「本当の親に会いたい」の一心で、訴訟に踏み切った。(小沢慧一)

◆「親に似ていない」と言われながら

 「仕事は何か、どこ出身か、2人はどこで知り合ったのか…。聞きたいことが山ほどある」。もし実親に会えたらと問うと、江蔵さんの目が期待に輝いた。
 「親に似ていない」と言われて育った。父と反りが合わず、14歳で家を飛び出した。39歳の時、母の血液型がB型だと判明。江蔵さんはA型で父はO型。実の親子ならあり得ない。7年後の2004年、DNA鑑定で血縁関係がないと確認された。「俺の体にはおやじの血もおふくろの血も流れていない」。頭が真っ白になった。
 実親を知りたいと都に尋ねても「取り違えなんてあり得ない」と取り合わない。自力で捜すため、墨田区民約33万人分の住民基本台帳を閲覧し、生年月日の近い人を抽出。当時住んでいた福岡から上京しては、このために購入した車で一軒一軒回った。半年以上かけ、接触できた約60人に該当者はいなかった。
 自分と同じ時期に出生届を出した人が分かる戸籍受付帳の開示を毎年、墨田区に求めたが、渡される文書はいつも黒塗りだった。

◆取り違えは認めても調査は拒否

 取り違えによる損害賠償を求めて04年、都を提訴。一、二審とも取り違えの事実を認め、都は賠償金を支払ったが、調査拒否は変わらない。「取り違えたのは都。なぜ協力しないのか」
 再び司法に解決を求め、15年間で数十人の弁護士を当たったが、「個人情報保護の観点で難しい」と断られた。今回、代理人を引き受けた海渡雄一弁護士は「都の過誤で『出自を知る権利』が侵害されたままなのはあり得ない」と語る。訴状では、産院には出産した子を親に引き渡す債務があり、都に調査義務があると主張。実親に連絡先を交換する意向があるか確認することなどを求めている。
 父は5年前に死去し、母は今年89歳。実親も他界している可能性があるが、訴訟に望みをかける。「誰から生まれた何者なのか。真のルーツを知りたい」
 東京都病院経営本部のコメント 訴状が届いていないのでコメントできない。

◆「出自を知る権利」 法整備が急務

 今回の訴えの根拠の一つが、1989年に国連で採択された「子どもの権利条約」が定める「出自を知る権利」だ。生殖補助医療が広がる中、法律で権利を保障する国が増えているが、日本での議論は遅れている。
 条約は、子どもが「できる限りその父母を知り、その父母によって養育される権利」を保障する。90年代以降、各国で法整備が進み、お茶の水女子大ジェンダー研究所の仙波由加里特任講師によると、英国、ドイツなど19の国・地域が「出自を知る権利」を立法化。「遺伝子検査で簡単に親子関係が判明するようになり、権利を認める動きは今後も広がる」と見る。
 日本でも2003年、厚生労働省の部会が「出自を知る権利」を認めたが、国会や政府内の議論は停滞した。昨年、第三者から精子や卵子提供を受けた場合の親子関係を規定する民法特例法が成立したが、「出自を知る権利」は付則で「おおむね2年をめどに検討し、法的措置を講じる」と先送りされ、超党派の議員連盟に議論が委ねられている。(小嶋麻友美)

関連キーワード


おすすめ情報

社会の新着

記事一覧