看護、不安つきまとい続け…「遺族の言葉が私に突き刺さった」旧大口病院の3人点滴中毒死

2021年11月6日 13時57分
久保木愛弓被告

久保木愛弓被告

<連載 深層(上)> 
「看護師に向いていると思ったか」
 「いいえ」
 証言台に座った久保木愛弓被告(34)は、弁護人の質問に対し、淡々と答えた。
 高校生のころ、母親に勧められた職業。「患者に寄り添い、不安を和らげる手伝いができる素晴らしい仕事」と思っていた。しかし、法廷での供述からは、常に不安を抱えながら患者に接していた様子が浮かぶ。
 苦手意識は、看護学校時代にさかのぼる。起訴後に被告の精神鑑定をした医師によると、学科では一割だけだったC評価が、実習では三割以上あった。「患者に応じた処置が苦手だった」と被告は語る。それでも、支払った学費や奨学金の返済を考慮し、進路は変えなかった。
 二〇〇八年に就職した横浜市内の病院では当初、リハビリ業務を担当した。「退院した患者さんが病棟に来てくれることがあり、元気な姿を見るのがとてもうれしかった」。看護師になってよかったとさえ感じていた。
 三年後に異動して急変患者の対応をするようになり、一変する。点滴の注射に手間取って、患者の家族から「早くしてよ。死んじゃうじゃない」と責められる体験もしたという。点滴を積極的にやったり、参考書を読んだりしたが、不安は消えなかった。抑うつ症状があらわれ、精神科に通い出す。休職をはさみ、一五年四月に退職した。
 翌五月、終末期患者を多く受け入れていた旧大口病院に再就職。選んだ理由は、蘇生措置をしない同意を多くの患者から得ていたからだと説明した。
 ただ、実態は異なり、心臓マッサージをすることもあったという。望んでいた終末期患者の対応も、「亡くなるはずだったから、と割り切ることができず、つらかった」。夕方から翌朝までの夜勤は月八〜十回あり、夜勤明けはベッドから出られない日もあった。精神的にも、肉体的にも、負担を感じていた。
 事件の五カ月前。急変時の処置をした患者が亡くなった。遺族から「看護師に殺された」と責められたという。説明は同僚が担い、被告だけに怒りが向けられたわけではなかったが「発する言葉が、私に突き刺さる印象でした」。恐怖心が膨れ上がっていった。
 ◇ 
 横浜市の旧大口病院で起きた点滴連続中毒死事件の裁判員裁判の判決が、九日に言い渡される。入院患者三人の殺害を認めた久保木愛弓被告に対し、検察側は死刑を求刑、弁護側は無期懲役が相当だと訴える。命を守るはずの看護師に、何があったのか。法廷での本人の供述や検察、弁護側の証拠から、背景に迫る。

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