法解釈では無理だった!? 黒川氏人事で検察庁法改正案一変 批判浴び「事後正当化」

2020年5月16日 02時00分
 安倍政権は検察官の定年延長に関し、現行法の解釈変更で可能になったと説明してきたのに、検察庁法改正案に明文規定を新設した。一月末に閣議で決めた黒川弘務東京高検検事長の定年延長が「違法」と批判を浴び、法解釈の限界を自ら認めたように映る。野党は「黒川氏の脱法的人事を事後的に正当化しようとしている」と法案の修正・撤回を迫る。  (清水俊介、中根政人)

◆法相は関係性否定していたが

 「昨年十月までは、検事長が六十三歳以降も居座れる規定を作らなくても『公務の運営に著しい支障が生じる』事例はなかったか」
 国民民主党の後藤祐一氏は十五日の衆院内閣委員会で、国家公務員法が定める定年延長の要件を挙げ、森雅子法相に見解を求めた。法務省が昨年十月にまとめた検察庁法改正原案には、定年延長を認める特例規定は含まれていなかったからだ。森氏は「見当たらなかった」と説明した。
 後藤氏は続けて「昨年十月以降は黒川さんの件だけか」と確認した。森氏は「その通り」と認めた。後藤氏は「黒川氏の人事と法案は関係がある。唯一の立法事実だ」と断じた。森氏は十二日の記者会見では、黒川氏の人事と法案の関係を否定していた。

◆法曹界から「違法」の声

 法案と黒川氏個人の処遇は、確かに無関係だ。法案の成否にかかわらず、現在の稲田伸夫検事総長が八月初旬までに慣例通り勇退すれば、政権は黒川氏を後任にできる。黒川氏が検事総長になった場合、二〇二二年二月に六十五歳で定年になる。検事総長の定年を最大三年延長できる今回の法案が成立しても、施行されるのは同年四月だ。
 だが、黒川氏人事を発端とする政権の混乱と改正案の変化は連動している。
 政府は黒川氏の定年延長は国家公務員法に基づく措置だと説明したが、直後から法曹界や野党で「違法」の声が上がった。現行の検察庁法には、検察官の定年は六十三歳(検事総長は六十五歳)と明記され、延長規定はないからだ。
 さらに、検察官は国家公務員法の定年延長制の対象外とする一九八一年の人事院見解の存在を野党に指摘され、政府の説明は迷走を始めた。直後、安倍晋三首相は定年延長決定から二週間を経て国家公務員法の解釈を変えたと初めて説明。つじつまを合わせるために森氏らの答弁は二転三転した。野党は法解釈の変更は「後付けだ」と批判を強めた。

◆特例規定を追加

 こうした動きと並行し、検察庁法改正案の内容は一変した。国家公務員法の定年延長制が検察官にも適用可能なら要らないはずの特例規定が加わった。政府は法案を変えた時期を「法解釈変更の後」(近藤正春内閣法制局長官)と説明。黒川氏人事を巡る混乱の中、法務省は急ピッチで法案を書き換えたことになる。
 法案が成立すれば、黒川氏のような定年延長は「当然あり得る」(武田良太行政改革担当相)。それでも政府は「合法」と言い張れる。「違法」のそしりも受けない。共産党の藤野保史氏は十五日の衆院内閣委で、政権による検察人事への介入や検察官の萎縮を招く懸念をただした。
 これに対し、森氏は政府が検察官の「民主的統制」のため人事に関与する正当性を主張。その上で「時の政権が都合のいい者を選ぶことはあってはならない」と言い切った。黒川氏人事への非難を素通りする発言に野党席がどよめいた。

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